迫ってほしいおとめごころ


彼氏が構ってくれない。

なんとなく不満である。








一応言っておくが沖矢昴のことではない。期待した?期待しちゃった?残念!違うんだな!
彼氏カッコカリでもコイビトカッコカリでもなければ彼女かもしれない敵のことである。
連日工藤邸に通い、演技とはいえイチャついて煽りに煽っているというのに敵は“現世では”静かなのだ。
出陣は相変わらずあっちこっちと大変なものだが。
「じゃあ、僕らは戻るけどちゃんと食べるんだよ」
「担当から金巻き上げたらたらふく食べる」
「言い回しが雅じゃない!…けど確かに必要だね。僕が同行できないのが悔しいよ」
いつもの癖でバッと頭を腕で守るが衝撃はこない。ちらりと歌仙を見上げれば今にも首を差し出せと言わんばかりの鬼の形相である。対象は担当であることを祈ろう。
本丸にいた頃から担当にはいいイメージはないのが本丸メンバー共通ではあったが、ここまで苛烈なのは現世での更に苦しい生活からだろうか。
「本丸のお野菜送るからね!」
「いっぱい、食べてくださいね」
「主の姉、頑張れ、色々と」
「狩りしたら送るからな!」
「…鳴狐もがんばる。ちゃんと処理してから送るから安心して」
「お頼み申す…」
乱ちゃん、ごこちゃん、骨喰、獅子王、鳴狐の順で声をかけてくれながら本丸へと繋がるゲートを潜っていくのを見送り、歌仙が最後にこちらを見ながら、ゲートを潜っていった。お肉は久しく食べてないのでお願いしたいが下処理されてないとお家が大惨事の事件現場みたいになってしまうので切実にお願いした。
それと入れ替わるように戻ってきた亀甲と村正は疲労の色が見えるがずいぶん逞しくなったように見える。容姿は変わってないはずなのだが。
「おかえり」
「「ただいま」」
「ギリギリまで出陣して練度を上げてきたんだ」
「妖刀伝説を見極めてきました」
「お、お疲れ様…」
今日は休め、と声をかけて安いお茶を煎れる為にキッチンへと向かうのだが、二人がついてくる。
「ご主人様に会いたくて会いたくて仕方なかったんだ…」
「やはり貴女の反応がないとつまらないデスね」
と、言いたい放題ではあるが、まあ…あれだ。
うちのこ可愛い、と言おうか。問題児ではあるが、それでも慕うコイツらに何かが刺激されて。
その日、私は二人を犬を撫でるようにめいっぱい撫で回した。




「で?練度は?」
「両者誤差はありますが80ですね」
「うーん…まあ妥当だな」
「この短期間でこの練度ですよ…?」

ベッドに腰掛け、こんのすけから表示される二人のデータを見比べていれば、こんのすけからドン引きされた。預けていた期間からしてみれば、この練度は高いらしい。
むしろもうちょいあってもいいと思うのだが、それは私だけなのか。
後から腰に腕を回し寝入っている亀甲と膝の上を頭で占領してこちらも寝ている村正を交互に見る。

「とりあえず、練度はこちらで何とかするとして…こんのすけ、敵の動きはどう思う?」
「未だ直接こちらに攻撃する意思が見られないように思います。その割には遡行軍の動きは活発なのが不思議ではありますが…」
「こちらの存在、歌仙と乱ちゃんを敵は見ているはず。カラーリング違いで気づいてなかったとしてもいきなり現れたのと同時に妨害してるの気づいてないはずないからなぁ」

敵は私の存在には気づいているはず。ならば現世で私を始末してしまえばスムーズに事が進むなんて簡単に思いつくだろうに。何のためにわざわざ護衛も付けず囮になっていると思っているのだ。構ってくれないと怒っちゃうぞ!ぷんぷん!
ちなみに襲われた時ようにちゃんと策は考えている。遡行軍であれば自爆して、歴史修正主義者本人であれば殴り合いである。あらやだ脳筋…というのは冗談にして。
敵は何を思っているのか、はたまた過去への執念はあれどこちらを傷つける度胸はないのか。何かの制約があるのか…。
手軽に撫でられる位置にいる村正の頭を撫でつつ考えるが、私は敵ではないため検討もつかない。
それにしても村正のサラサラのくせにふわふわした髪は手触り最高である。これは小狐丸といい勝負ではないだろうか、と思っていれば手袋をした手に取られ亀甲の頭へと手を置かれた。
満足げに離され、再び腰に巻き付かれた亀甲の腕を見届けて頭を撫でる。
亀甲の髪もサラサラなんだよなぁ。つやつやで綺麗な髪色だ。貞ちゃんを除く貞宗派の髪色は結構好きだ。貞ちゃんの髪も好きになりたいので早く弟本丸に来て欲しい。何十回、何百回と遡行軍&検非違使相手に喧嘩し続けてるから。今は弟が奮闘しているけれど。
そうしていると村正の腕が村正の頭に私の腕を運ぶ。
そして亀甲の腕が再び…とやりはじめたのだ。

おいお前ら私の手を取り合うのやめろ。