パパとじぃじの肩を揉む


世間はフランケンシュタインだかバレンタインだかヴァレンタインだか棒状のプレッツェルにチョコのついたエクスカリバーだかで盛り上がっていたようであるが、万年金欠の男所帯には縁のない話だ。
紅一点なはずの私を女カウントしていない、という事実を述べれば納得していただけるだろうか。本丸での私の扱いは引きこもり野生児という相反した属性持ちの女児である。我お前らの主の姉ぞ!?

話は酷く脱線したが、チョコ投げてリア充を勝ち取れるかの戦争あるいはチョコをあれやこれやして性夜にするイベントを丸っと無視して今日も本丸は平和な1日を過ごしていた。




万年金欠本丸といっても、戦績は重要だ。
弟の所有する刀剣男士の数も四十後半になり雑費と食費の必要経費から手入れの資材を稼ぐため遠征地獄だし、それと同時に出陣続きに手入れで遠征から持ち帰った資材もすぐに消える。
それでも多少の余裕が出るように弟と二人、スッカラカンな脳みそをカランカランと鳴らして、どうにか調整出来てきている。
そんな本丸事情もありつつ、どうにか戦績に応じたボーナスを貰えないかと考えている私達姉弟の浅ましさには目をつむって欲しい 。
不便はなくとも彼らに娯楽のひとつでも増やしてやりたいのだ…。

そんな事を考えながら床にうつ伏せになる男の背へ馬乗りになり、親指に適度な力を入れてツボを押す。「あ〜…」とやや親父くさいイントネーションで声を上げつつ、私からは見えないその美しいかんばせを蕩けさせているだろう彼は完全に私に身を委ねていた。
じぃじとパパのご老太刀二振のメンテナンスは基本的に私が担当している。他にも担当している刀剣も多いが今日はその殆どが遠征と内番にあたっている為、今はこの二振だけだ。おい江雪、お前出陣拒否って畑いじりしてんじゃねーよカンストさせただろ。え?ロールキャベツのためのキャベツ育てるって?OK畑番は任せた。
本日20回目の出陣を終えたといっても、さらに誉桜付けに演練やらなんやらと弟に連れ回されていたのもありステータスを確認すれば赤疲労状態。つまりは心身ともに疲れきっているのである。
狩衣を半分脱ぎ、私が腰に跨ってインナーの上からツボをおしているじぃじ…三日月宗近。その横でいつも余裕綽々といった感じの自称刀剣の父であるパパ、もとい小烏丸も今は少々不機嫌そうだ。早くしろと急かされている気がする。
「パパ、ちょっと待っててね。じぃじの凝りほぐして湿布貼るから…」
「父は待ちきれんぞ?」
「私の身体二つないからちょっと難しいかな……」
「んっ…このは、そこだ、そこ…」
「じぃじのその声って心臓に悪い」
はよせいはよせい、とパパに煽られながらグッグッと背を押しているとじぃじに喘がれる。
天下五剣でもっとも美しいと言われている彼の喘ぎである。罪悪感と背徳感がすごい。なんかすごい。
まさにただでさえ少ない語彙力が消滅した瞬間である。
湿布を取り出してインナーを捲り上げるが、これもなんだかイケナイ事をしているような気分になる。
とりあえずぺったりと貼り付けてポンポンと背中を叩いて終了を知らせた。
「なんだ…俺はまだ足りんぞ」
頬を膨らませて不満を漏らすじぃじのあざとさ、プライスレス。直視した私は萌え悶え口元を抑えて耐えた。
あ、手が湿布くさい。
そして背後から期待に満ちた視線を感じる。言わずもがなパパである小烏丸の視線だ。
「パパ、背中向けて〜」
「頼むぞ、父の子よ」
「んんっ!あーい」
私の言葉に背を向けて桜を舞わせている小烏丸の言葉に吃りながら返事をすれば、その病的なまでに細い肩へと手を伸ばした。

小烏丸と私が並べばどう見ても小烏丸の方が年下である。なのにこの本丸の中では年齢的な意味でトップなこの事実。見るからに年下なのに私をパパの子呼びしている事に私の心は射抜かれた。弟からは理解できないとドン引きされているのはどうでもいい情報だろう。

「このへん?」
「ああ…そこだ。そう、よいぞ」
「このは、このは。じじいもまだ足りんぞ」
「順番ねー」

加減をしつつ揉んでいれば、じぃじが急かしてくる。今度はこっちか。
お金が溜まったらマッサージチェアの導入を検討すべきでは無いだろうかと思うが、マッサージチェアを巡って戦いが起きそうだとも思う。母数が多すぎて1台では無理だ。我ら姉弟の指の関節がイカれるのが先か複数のマッサージチェア導入できるのが先か……前者だろうな。

「このは、早く」
「このは、父の番はまだ終わっておらぬぞ?」
「わかった!わかったから!!」

急かす両者に慌てながら、私の1日は過ぎていった。



このあと出陣を終えた第2部隊、遠征からスライドして第3部隊、第4部隊が合計50回の出陣を終え疲労している刀剣男士のサポートに姉弟揃って走り回り…。
主に親指が、ついでに物を運んでいた腕が疲れきり翌日思うように動かなかった事をここに記しておこうと思う。