合間の話


唐突な話になるが、あの日からひと月ほど本丸に滞在していた。滞在せざる得なかったというのが本当のところだが。

順を追って説明しよう。なあに、いつもの力が抜けるような下らない内容である。
あの日、私の言葉で魂が抜けた桜花派の担当と別れ、一時的に本丸へと戻り弟と今後についての相談をした。
弟からはさっさと帰って来いとは言われているが、桜花派の担当が言うように菊花派の上がそれを素直に認めるとは思えない。というか引き継ぎをどうするんだという問題もある。まあ、それはそうとして、その後のことだ。
本丸へと戻った私を待ち構えていたのは質素ながらも本丸生活をしていた中で一番豪華な料理たちだった。
ドヤ顔をキメる燭台切と歌仙、微笑みながら私の頭を撫でた蜻蛉切の厨組と私を囲む粟田口ファミリー。その他面々に囲まれながらとった食事は最高に美味しかった。
なにより驚いたのはいつの間にか弟が数珠丸さんと大典太を入手していたことだろうか。
相変わらず歌仙のスパルタ淑女教育授業は受けさせられたものの、お鶴さん…鶴丸と一緒になって悪戯したりして弟により葛龍の中で反省しろと閉じ込められたりもしたのだが……そう、それが原因である。

このは、狭くて暗いところだぁいすき!な私は葛龍の中で安心して寝ていた。反省?馬をイクにした事は反省したよ。うん。
そんな私は突如落下し、凄まじい衝撃で目をしましたと同時に舌を噛んだ。
衝撃は1度では済まずガタガタンと連続して起きる。というか転がり落ちている。
あ、これ凄く身に覚えがある。
と同時に箱の中から投げ出された私は土の地面に顔面からダイブしたのだった。

事のあらましはこうだ。
山伏、山姥切、同田貫、数珠丸、にっかりの5振が修行しに山へ登る際に必要な荷物と単なる重りを探していた。
そこでたまたま彼ら基準で丁度いい重さの葛龍…私が閉じ込められていたというか封印されていたというか、入っていた葛龍を見つけた彼らは中身を確認しないまま私を運び出し山へと登ったのだ。
そこでアクシデントが起きたらしく葛龍を落とし、私が投げ出されたのである。

お鶴さん然り、儚い見た目に騙されてはいけない。儚げな奴はだいたい中身がぶっ飛んでいるのだ。数珠丸さんもそれに洩れず、中々にぶっ飛んだ人だ。修行と聞けば嬉々として丸太の降る滝にうたれるってどういうことなの。僧ってなんなの、みんなヤバイ。唯一の救いは江雪だけか。
察してくれただろうか、私が誰に背負われていたのかを。

そんなこんなで片腕と肋骨を折り、顔面が崩壊した私は暫し本丸での療養を余儀なくされたのである。他の刀剣男士や弟には怒られるし骨は折るしで散々である。


そのひと月の間に様々な事があった。
まずは庭梅のことに関して。
ホモ歴史を作ろうとしている奴らの事を独自で調べたらしく、凄まじく怒り狂っていた。今現在、遡行軍が遡行軍を討って回るある意味異常事態が起きているが私からしてみれば万々歳である。
また、任務はやはり続行との連絡が新たに宛てがわれた担当から告げられた。金銭面に関してはきちんと支払う旨と支払われなかった弟の給料を現在調査し、結果が出次第支払うとも。
所持刀剣の変更は無し…審神者でない私にこれ以上の刀剣男士を持たれる事も避けたいらしい。まあ、これは任務が終わった時の事を考えれば、ひとつの本丸に2人の審神者を置くようなものである。システム上難しい事は察せられたので弟本丸の刀剣男士を借りる事を許可させた。
次に他の審神者との連携について。
ここはやはり断られるだろうと踏んでいたが唯一スザクと名乗った男の子との連携が取れそうである。彼は怪盗キッドに関する任務についているとのことで、私が担当しているキッドキラーと呼ばれているらしいコナンくん絡みで連携が取れることは助かる、と言っていた。
最後、赤井秀一に関して。
コナンくんに私のことを散々探られたらしいが、怪我により療養中である事以外、実際赤井秀一には伝えてはいなかった為さらに怪しまれているとの報告を受けた。恋人カッコカリもそろそろ本格的に利用しよう。信用している赤井秀一と信用ならない私がつるむ事に疑心暗鬼になってしまえ。
なんて八つ当たりである。大人気ないが知ったことか。
そんなこんなで完治はしていないがこれ以上長く本丸カッコカリを空けるわけにもいかず、腕にはギプスをつけたまま現世へのゲートを潜り本丸カッコカリへと帰ってきた。

からと言って暇ではない。24時間働けませんがやることはやらねばならぬ。
「はい!次の出陣!第二部隊頼んだ!第一部隊は手入れ部屋へ!傷のないものは休憩を!」
それなりに広い部屋だが男女13人がいれば窮屈だ。しかしそうも言っていられないのが現状で、あっちに出陣こっちに出陣と大忙しである。
「あ、赤井さん?うん、怪我はまだ完治してないけど大丈夫。…こら村正!そこで脱ぐな!あ、ごめんごめん。うん、うん…あー…その日は鈴木財閥のお宝披露に行く予定。そうそう、怪盗キッドから予告届いたとこ」
指揮を取りながら赤井秀一からの電話をとり村正を叱る。
肩と顔で携帯を押さえながら通話し、視線は画面に、時々報告書に視線を落としながらも無事な利き手は止まらずに文字を書き続けていたせいで少々気が散っていたのは確かだったせいで次の言葉に反応が遅れる。

『怪盗キッドには僕も興味ありますし、今回はついて行きましょう』
「わかったー。………え?」


いや、別にいいんだけどさ。