人生難易度
エクストラハード突入!


私は今、銀行のATMで政府から用意された戸籍で作った口座に振り込まれた初期費用として支払われた給料の金額を見て絶句していた。
おい初任給8万円ってマジかよ、パートかよ。
ちなみに家賃は3LDKで16万也。問答無用で用意しておいてきっちり家賃取るとかなんなの、せめて経費で安くしろよマジふぁっく。

つまり、翌月の収入にもよるがこのままだと家賃も払えないのである。笑えねぇ…。


「くっそ、やられた……忌々しい菊花派め…」
日雇いバイトの契約の説明会を早々に予約し、バイト募集の雑誌を喫茶店のボックス席を一人占領しながら必死こいて読み漁る、悲しいかな彼氏いない暦イコール年齢もアラサーと呼べるまでになってしまった女の図は悲惨である。
今から働き出しても家賃を支払うのは無理と判断して即座に弟へ援助要請をしたが、あの本丸も衣服以外はほぼ自給自足生活だった為に期待はできない。
そもそも命と存在がかかってるプラス審神者の才能で高給取りなはずの審神者である弟が薄給という時点で推してしかるべし。
全ては上が悪いのだと上の心下知らずな我らは思う。
時の政府には派閥が三つある。
血や家系を重視する菊花派。
そんなことより戦争だ、な戦闘重視の中立を保つ梅花派。
審神者と刀剣男士は大切にしよう、な桜花派。
因みに弟についてる担当はこの菊花派のため、血も家系もない、それどころか歴史の摩擦で取り残された厄介者なもんだから我ら姉弟の扱いは酷いものだ。そんなわけで他はクソだと思っている節がある菊花派に取り込まれたせいで給料袋が薄い、ほかの審神者は六振までの同行を認めておきながら厄介者の私には二振という制限、ほかの審神者よりも危険度の高い地域に常在……なんだこの遠回しなくせにダイレクトな殺意は。
つか私以外に派遣された審神者は全員桜花派じゃないか。とても羨ましい。
因みに梅花派は戦闘狂が多いから多分本丸でヒャッハーしてると思われる。戦闘系審神者怖や。
そして大変不本意であるが菊花派である私は桜花派の審神者に警戒されているのである。ねぇ虐め?ねぇねぇこれ虐め?
因みに担当へ抗議の電話を入れたが馬鹿にしてくれた上にこれ以上の金額は支払わないと言う。アイツ経費とか手続きとか銘打って自分のポケットに入れやがったな。多分振り込まれた8万円は引く理由がなかったから仕方なく振り込んでやった、みたいな感じなんだろう、あの担当からしてみれば。
この世は地獄です…とテーブルに突っ伏し、意味の無い唸り声を小さく上げた。
片手でメニューをとり、取り敢えず飲み物だけでも注文するべく目を通す。
金がないのになんで喫茶店に入ったんだろ、私。

「お姉さん、どうしたの?」

やや高めの、少年だろう声がこちらにかけられた気がした。メニューをどかして通路側を見てみれば視界にはメガネと蝶ネクタイが印象的な少年がいる。
身を起こして彼に向き合ってみれば「職探ししているの?」とストレートに聞いて来た。とても心が痛い。

「そーだよー。思いの他、今の職場のお給料が少なくてね。このままじゃ家賃すら払えないからダブルワーク……お仕事二つにしようかなって」

見た感じ小学生か最悪それ以下に見える少年にダブルワークなんて通じないだろうと言い直して伝えれば余程ひどい顔をしていたのだろう、可哀想なものを見るような目で「大変だね…」と呟かれる。アッ、心が中傷。
しかし現実問題これはやばい状態であるのは言うまでもない。入居して即座に家賃滞納とか世間的にも人道的にもよろしくない。
村正と亀甲をホストクラブやSMクラブにぶち込めりゃ生活は楽になるかもしれないがやったら最後、刀剣虐待として検挙の後豚箱エンドである。そうじゃなかったとしてもそれをやるとしたらいよいよ生きるか死ぬかの瀬戸際での最終手段だけども。
でもこのままだと色男二人侍らせてるホームレスになる。ちょっとパワーワード過ぎて何言ってるのかわからないです。
だからと言って仕事でスケジュール埋め尽くすと現世に来た本来の任務の遂行は難しくなり任務遂行の意思なしと判断されかねない。これが四面楚歌か、胃が痛いぜよ。演練で相手になった梅花派のトリガーハッピーしてる陸奥守はトラウマです。

「菊花派め…担当め…いつかころしてやる、社会的に。大々的に担当の性癖公開してやる…ドアの角に小指ぶつけろ、窓で指挟め、枕が臭え、社会の窓全開にして通報されろ、毛根全部死滅しろ…」
再び突っ伏し呪詛を吐きつつ未来に絶望した。
「きっかは、ってなあに?」
「私を担当してる職員が所属してる派閥だよ…血と家柄を重視するとこなんだ」
「お姉さん高貴な人なの?」
「そのへんにいる一般市民以下だから扱いが酷いよ」
「…どんな仕事してるの?」
「多分神職……神様に仕える系?さらに詳しくいうと鍛冶手伝い」
「家事手伝い?実家が神社とか?」
「一般家庭育ちだよ」
いや神様使役してるから違うけども審神者も神職の名前だった気がするし間違ってないはず。それに正式な審神者じゃないからコレであってるはず、うん。審神者名ないし。
てかなんで私は尋問されてんだ。
よっこいせ、と脳内で掛け声を上げて再び身を上げて少年へと声をかける。
「少年」
「江戸川コナンだよ。」
「江戸川って聞くと乱歩と言いたくなる。じゃなくて、私は大河このはね。こなん君?の親御さんは」
「コナンくん!!」
どこだい?と続けようとすると女の子の声がかけられる。
制服を身にまとった高校生と思わしき女の子は私へペコペコ頭を下げて謝罪する。まるで親だが流石にこの子の母親じゃないだろう。そうだったら私は絶望する。
「本当にすみませんでした!」
「気にしないでください、いい気晴らしになったので」
問題見直しただけだけどな、とは流石に口に出さず外行きの猫を被る。
故意に死んだ魚の目をしていただろうものもしまい込んで目を閉じて笑みを作り彼女へ向ければ安心したように息をつく音が聞こえた。
そして彼女は少年…コナンくんとやらを連れてチョビヒゲのスラっとしたオジサンのところへ連れていく。何かを探るような、怪しむような視線を向けているコナンくんにヒラヒラと手を振り見送ればチョビヒゲオジサンのコナンくんを叱る声をBGMに再びメニューへと視線を向けた。
ミルクティー頼も。