悩みは尽きぬ


あらすじ。
イケメンが怖くて亀甲にお迎え頼んだら社会的に殺され(ここまでが前回)、瀕死の重傷で帰宅したらリビングで全裸の村正とエンカウントしてトドメ刺された。


「おまえら、ちょっと、そこになおれ」
まるかじりしてやろうか。


しくしくと痛む胃を押さえながら軽く物を口にして胃薬をカルキ臭い水で流し込む。
亀甲と村正を叱ったがどこまでちゃんと聞き入れてくれたのか…。
亀甲はともかく、村正は個体にもよるが多くが主大好きちゅっちゅっ勢ではなくマイペースで主の下にいながらも、実際は同列に並び従いつつ傍観しているような傾向にあるように思える。
それ故に視野が広く、思いつかない方向から切り込むことがある。相棒とすれば心強そうだが癖が強いせいで言うことを聞かせるのは難しそうだ。そもそも相棒にするなら言うことを聞かせるという表現こそおかしいのだが。
というか脱ぐのはいいのだ。そういう開放感を求める人間もそれなりにいるのだし、場所も覗き込まれる心配のない仮住まいであるし、場所を選んではいるから。
だが主としては脱ぐのは戦場での脱ぐと同じく抜刀という意味でして欲しいのは贅沢な悩みだろうか。せめて不意討ち全裸は勘弁して欲しいというのが切実な思いだ。私も一応女だし、股間にぶら下がるアレコレは見慣れてないのデス、おねがいします。あれ?村正が乗り移った。
そこまで考えてからやはり問題は亀甲の「ご主人様」呼びと発言………いやダメだ結局村正の発言もアウトすぎる。「どうかしましたか?脱ぎまショウか?」って文脈おかしいだろ、アウト発言だろ。
コップを置いて片手で顔を覆いつつ携帯を取ろうと手を伸ばした。定期報告をしなくては。
そういえば、あのイケメンの顔はもう覚えていない。というかオーラという後光で顔が見えてない。
だがしかし声は妙に聞き覚えがあるのだ。「ぶーらぶらー!」と「アムロいきまーす!」の二つが脳内に再生されるのだが後者はともかく前者の名前はなんだっけ。なんとか仮面であったような気がする…変態仮面はパンツ被ってる方で…これは違うな。なんかまんまだった様な気がするのだが。
もう会うことはないだろう、最初で最後のあだ名を付けて脳内削除することにする。アムロ・レイよ、さらばだ。
それでも社会的死のショックはなくならない。
もうおそとでたくない。ごこちゃん、パパ、じぃじ、癒しをください。






これは桃色の髪に眼鏡をかけた優しげな顔つきに白スーツという着る人を選ぶものを見事に着こなし店の中で「ご主人さ…」と言いかけた男性とブチ切れながら「イケメン怖いんだよ!」と叫んだ女性の二人組が嵐のように去っていった後の事である。
工藤新一、もとい現在は江戸川コナンである彼は小1としても、本来の年齢であるとしても衝撃的な出来事を忘れられないでいた。衝撃が強すぎて忘れたくとも出来のいい記憶力は自分の意志に反して忘れてくれない。
なんだったんだ、という小五郎の言葉に内心同意しつつ多分神職で家事手伝いと言っていた大河このはという女性は目に感情を見せるが表情には何も浮かべない無愛想ともいえる女性だった。唯一蘭を相手に笑顔を見せた時は目から感情の色が消えていた。
しかし、呟く恨みつらみは声色からして本心なのだろう。どんなところに務めているんだろうか。ダブルワークと言うからには一般企業ではなくパートアルバイトの類であるのだろうが。それにしては派閥というのは妙だ。
ただ、安室に見せたあの完全に怯えきった様子は気にはなる。遠目からでも瞳も態度も恐怖に震えていたのだ。
まあ、去り際の「イケメン怖い」が本心なら、仕方ないのかもしれないが迎えに来た青年は綺麗という表現が似合うだろう、安室とは少し方向は違えどイケメンである事には変わりない。
それも二人の関係にもよるが…。
何か関係があるのだろうか…と考えて、安室を横目で見れば彼も何かを考えている様子から見るに彼も彼女に覚えはないのかもしれない。その様子を見届けつつ毛利探偵事務所へと戻って行ったのだった。