神は死んだ


社会的死から多少の心の傷が癒え、アポロだったか、ポアロだったか…そんな名前の喫茶店には二度と近づくまいと誓った数日後のこと。
電話口で担当と金について汚い罵りあいをしてから食費を引き出すために銀行へと向かった。
汚い大人と言うことなかれ。本丸と違い何をするにも金がかかる世界で、こちらとて刀剣男士を二振抱えての生活に、金に必死なのだ。私は弟の本丸から持ち出したものがあるから良いが、亀甲は戦衣装とジャージのみ。村正に至ってはどちらも現世を歩くには適さないため全て買わなければいけなくて財布が薄いどころの話ではない。
というか一向に必要資料すら送ってこないとは何事だコノヤロウ。どこで何を監視すればいいんですかお仕事出来にゃいにゃ!
唐突に猫化というお前歳と自分の顔面鏡で見てみろと自分自身に言いたくなる事をぼんやり考えて、荷物持ちという名の護衛である本日の近侍、村正を連れて買い物を済ませる。
「大量デスねえ」
「内容物は悲しみの極だけどね」
案の定弟からの金銭的援助は難しく、本丸産の米を送ってもらった為、米の心配はなくなったおかげで多少食費は浮く。ただしマイバッグの中には割引商品の調味料と安売り卵、小麦粉や片栗粉などの粉物。あと、もやしとモヤシともやしとモヤシと大量のもやしなどなど……。すまんな、貧乏飯が続くが我慢してくれ…。
これも担当のせいだと憎しみの念を送れば隣ではそれを好ましそうに笑みを浮べながら見ている村正の真意を疑う。まさか復讐心に反応しているのではあるまいな。復讐系は小夜の十八番だし、村正じゃないでしょ。
妖刀伝説も恨みつらみで出来たものでもなかったような…徳川なんたらをよく傷つけたのが村正作の刀とか槍だった気もするけれども最後にその資料読んだのが1年くらい前だったせいか思い出せない。私の記憶力は鶏だ!!だから早くあの社会的死を忘れさせてくれ!
脳内は安定の思考の脱線をしつつも、特に何も言わず担当のバベルの塔の崩壊を神に祈る。しかし神がいるなら私の神は死んだ。神は死んだのだ。簡単に死にやがる。
くだらない話をしながら、時に脱ぎまショウ発言に被らせて阻止しつつ帰路につき、あと十分程度で仮の我が家である本丸カッコカリに辿り着こうとした時だ。
政府により配布された村正と亀甲と担当、弟、唯一の友人の5件しか登録されていない携帯が着信音を響かせた。
SMフォーラムだからこの着信は亀甲だ。
通話するために携帯を耳に当て話しかける。
「どうしたの?」
「あ、ご主人様!政府から届け物だよ。えーと…ごんぎつねの」
「ごん…おまえだったのか……じゃねーわ。こんのすけのこと?」
「そう、それだよ!資料だと不都合があるとかで、彼にインプットされているから目を通すようにって」
「やっとか…分かった。もうすぐ着くから大人しくしててね」
「こんのすけが届きましたか」
「ああ。急いで帰るよ、村正」
「承知しました」
そう言って通話を切り通話中は静かにしていた村正に肯定すれば帰路を急ぐ。
自宅はすぐそこだ。


丸々としたフォルムと厚化粧にしか見えない例のこんのすけの小さくとも可愛らしい瞳がこちらを見ている。
その中、そちらを見ずに目の前に浮かぶ映像のような画面を慎重にスワイプして任務に必要な情報に目を通す。
列車爆破テロのような事件が起きる為、それを阻止しようとする歴史修正主義者を妨害せよ…か。
歴史的にあるべき事件らしいがやることはコチラの方が悪いことをするようで何かムズムズするが心を殺すしかないだろう。
あらましのみの簡素なデータに目を通し終わり、画面を閉じる。
「お読み頂けましたか」
「ああ。その事件の妨害を妨害すれはいいんだろう?」
「はい、その通りです。その通りなのですが…… 」
言い淀むこんのすけに首を傾げる、どうしたのだろうか。

「これは審神者様のみに課せられた任務です。歴史修正主義者がこれから起こそうとする……」

その後に続いたこんのすけの言葉に我が刀達はきょとんと、それこそ村正もだ。
私は顔を手で覆い空を…いや、天井だがそんな事はどうでもいい。とりあえず仰ぎ…。

ジーザス!なんてことだ、全ての神は死んだ!!