※色々バレた後の話。山なし落ちなし意味なし。
例えば、あの時ああしていたら、ああ言えていれば、なんて考えたことはないだろうか。
私はある。むしろ多すぎるほどに。
その後悔の程度は別にしても、それが実現できるとしたら揺らがない人は少なくないだろう。
歴史を変えるなと言い聞かせても、ただタイミングを変えるだけ、たった一言言うだけならという思考にだってなるだろう。
例外は居たとしても、同じ後悔なんて誰だってしたくはないものだ。
バタフライエフェクトという言葉がある。蝶の羽ばたきが竜巻を起こすかというものだが、先程のことにこれが該当する。
それこそ、羽を休める蝶がふと羽をゆっくり広げるが如く何気ない行動が、後に多大なる影響を及ぼしかねない。
って事は別に今は忘れてくれて構わない。問題は目の前の少年と奥のカウンターで食器を拭いている男の2人だ。
「過去を変える…か」
「人間であれば1度は思うことだろうけどね」
甘いカフェオレに口をつけ、目の前の少年…コナンくんはブラックコーヒーを前にして考え込んでいる。
「大々的に変えようとしている奴程とはいかずとも、たった一言、たった数秒のタイミングを変えての行動を取りたいと思う人はいる。それだけでも変えちゃいけないんだよ」
「…どうして?」
「察しはついているくせに」
「ぼく子供だから…」
「子供は子供だからなんて言い訳にせんぞ。あ、いや…うん」
視線を逸らすコナンくんをジト目で見つめて発言するが、最近の子供はゆとり世代からさとり世代に移っているところまでは記憶している。そこからまた世代交代したならこんな子供がいても不思議ではあるまい。言葉を濁してから再び口を開く。
「例えば、そのたったそれだけが実現されたとしよう」
さあ、絶望するが良い。
「コナンくん、シャーロック・ホームズ好きだよね?」
「うん」
「そもそもシャーロック・ホームズシリーズが存在しない未来になるかもしれない。又は未来で全て計算によって犯人を特定し名言のひとつも残さず現場に運ばれるくらいでしか移動しないAIシステムシャーロック、みたいな事になるかもね」
「……」
「エドガー・アラン・ポーが何も書かなかった、又は才能が評価されず江戸川乱歩のペンネームとして使われなかったりするかもしれない。そうなると代表作もだいぶ変わるだろうね」
「まって、待って!?たったそれだけでそうなるの!?」
「当たり前だよ。単に筆が進まなくなったとか時代の風潮もあるけど第三者のたったそれだけな行動でこうなる事だって十二分にある」
「更に考えてみよう」
「まだ!?」
「妃弁護士美人だよね」
「え?あ、ああ」
「そりゃモテるよね」
「だろうけど」
「とある男が妃さんと小五郎さんが出会う前に仮にものにしたとしよう」
「…まさか?」
「蘭ちゃん産まれないよね。でもタイミングズレただけだよね、仕方ないよね」
「仕方なくねーだろ」
「だから小さいことでも変えちゃいけないのさ」
「ありえねぇ…」
頭を抱えるコナンくんを眺めつつ、奥にいる男、安室透へと視線を向ける。
「有り得ないことなんて有り得ない、そう思いません?安室さん」
「……否定は出来ませんね。遡ってみれば宇宙に行くことも、VRゲームも昔は夢物語に出てくるような物が今ではありますし」
「意外と不可能も実現可能なこと多いんだよね。理論上可能、実現不可能とか理論上でも不可能な事も長い目で見れば実現可能である見込みが多いんだ」
「でもよぉ…」
猫の剥がれたコナンくんがどうにか復活してこちらを見る。まあ元気出せよ、とふと視界に入った本日のケーキ、レモンパイを安室透に注文する。
「つまり、私が歴史を変えさせないために働いてるのはこういう事になりかねないからだよ。数百年単位で遡ってる先輩達が頑張ってるのもひいては日本のため」
「…納得はできるけど釈然しねーな」
「シャッチョサーン、ワタシノコト、シンジテヨー。ホラー、コレワタシノオゴリネー」
「もう信じない」
「なんだと」
安室透の持ってきたレモンパイをコナンくんへ、とジェスチャーして置いてくれた安室透は小さく頭を下げて去っていく。しかしまあ、聞き耳はたててるだろう。
対してコナンくんは対して私を信じてもいないくせにそう言うのだから小憎たらしい少年である。
