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少女は物を知らない。
保護した日、シャワーも使えず歩美が世話をし、服も身につけていたニットワンピース以外の着用の仕方を知らなかった。家にあるもの全てが目新しい様子で、換気の為に開けていた窓をよじ登り落下しかけたり、風に靡くカーテンを警戒しながらつついていたのも記憶に新しい。
言葉も片言ながら口にするのは売れ残り歴が長い為だろう。本来は言葉も購入者が教え込むらしい。
何も知らないわけではないようだが、かと言ってトラブルは絶えない故に教え込む必要はあるようだ。
これはハイハイをし始めた子供を育てることに等しい。目が離せないからだ。
泣きわめかないだけマシか、と沖矢昴の姿でいる赤井は自分を鼓舞して幼児用の本を開いた。


「ねこ」
「…」
「こぶた」
「…」
「…」
「…」

動物を指差しながら名前を教えるも、ずっとこの調子である。
ただ絵本のファンシーな動物をじっとのぞき込むだけで言葉を発しようとはしない。
こちらの言葉を聞いているのかも怪しい少女に軽いデコピンを食らわせてみれば、面白いほどに仰け反りコロリと転がった。
「!…!?」
痛むのだろう額を両手で押さえながら身を起こした少女は驚きながら赤井を見る。
赤井は自分を指差し、
「すばる」
そう言葉を発する。
少女はこてんと首をかしげ
「…す、ばる…?」
「そうだ」
「すばる」
「言えたじゃないか」


少女が赤井に引き取られて、最初に学んだ言葉だった。

「すばる」
「はい」
「すばる」
「なんですか」
「すばる」
「なんなんだ」

子供は覚えた言葉を使いたがる。
それはそれである。しかし、結局数冊の絵本を読み聞かせても覚えたのは「すばる」だけだった。

「すばる」

少女は自分を指差し、首を傾げた。

「…店では、なんと呼ばれていたんだ」
「………じぇい」

少し言い淀んだあと、少女は口を開いた。ジェイ…Jと言いたいらしい。

「じぇい、じゃんく。じぇい、じゃんくひん」

J、Junk.ジャンク品。
そう言う少女はその言葉の意味を理解しているだろうに表情は何もない無のままである。

「じぇい、ほしい。なまえ」

そう強請る少女に1度視線を逸らし思考する。確かにそろそろ呼び名をつけた方がいいだろうとも思う。しかし付けて万が一愛着が湧いても面倒というのも本音だ。
しかしここで断ればまた面倒なことに成りかねないとも思えば、これは一時保留にしておくのが無難である。
少女に視線を戻し、

「……そうだな。考えておこう」

そう言葉にすれば、少女に微々たる変化が現れた。
口角が少し上がり、頭部の花が心做しか増えようと蕾を作っている。
赤井は顔を手で覆い、ため息をついた。
本を読む前に掃除した床は、1時間もすればまた少女の落とした花で点々と彩られるのだろう。
ガラクタの星