幕間



 また駄目だった。
 霞んだ視界に赤が映る。これは私の血か、それともどこかで燃えている炎か。ここら一帯の民間人は恐らく皆殺された。平和の象徴であるオールマイトも、もう倒された。彼を超えるヒーローがいない限り、もうこの世界は終わるだろう。そして敵ヴィランによる、新しい世界が始まるのだ。せめてもの幸運か、私はこの世界とはここでお別れだ。悲鳴と嫌な笑い声が満身創痍の身体と精神に追い打ちを掛ける。
 また、誰か死んだ。拳を握り締めようとしても、指が動かない。今回はヒーローになれたのに、また1人も救えない。あいつを、オール・フォー・ワンを倒せなかった。
「くそ……っ!」
 そんな叫びも最早肺から空気の漏れる音にしかならない。頼りのない呼吸が徐々に浅くなる。今回の終わりが近付いている。
 いったい何が足りなかった?  実力? それもあるだろう。精一杯頑張っても、私では歯も立たなかった。個性も近接型で決して弱くない。ヒーロー科を卒業し、それなりに鍛えたつもりだったのに。運? そんなもの、こちらにはどうにもできないではないか。考えるだけ、不甲斐ない気持ちになるだけだ。時間? 今回は高校2年生から始まった。いつもより時間はあったはずだ。もっと時間が必要なら、いっそ赤ん坊の頃からやり直させてほしい。
 考えてももう何も思い浮かばない。それこそ、その3つ全てが上手く噛み合うことなんて奇跡でも起こらない限りあり得ない。そしてその肝心な奇跡とやらは、信じても祈っても願っても起こってはくれない。瞼を開けることすら億劫になり、目を閉じる。
ああ、終わる。私の2221回目の人生が終わる。
終わりはいつも、遠くの赤黒い悲鳴で彩られる。
「助けて! 誰かぁ!」
 もう、動かないんだ。私には貴方が救えないんだ。
次はきっと。奇跡も、起こしてみせるから。だから今回は、さようなら。呑み込まれるように、意識が落ちていく。
 また、悔いしか残らない2221回目の人生だった。
朝腹の丸薬