03



「個性把握……テストォ!?」
 ええ、そう叫ぶ皆の気持ちはよくわかる。雄英高校すごいな、さすが。って言ってしまえばそれで終わりなのかもしれないけど。
 遡ってしまえば、教室入った時から驚きっぱなしだったわ。
 まず爆豪が既にクラスメイトに突っかかってたこと。
 無個性と言われていた緑谷が合格していたこと。
 私達同中3人が同じクラスだったこと。
 担任が想像以上に無気力系合理主義人間だったこと。
 クラスメイトが想像以上にフレンドリーだったこと。
 1番最後に関しては皆もう名前呼びレベル。侮れない、ヒーロー志望者のコミュニケーション能力。私としては、それなりに怪しまれず過ごせればそれでよかったんだけど、この分だとその心配も無さそう。逆に信頼を築いていく方が簡単かもしれない。
「入学式無しでいきなり個性使用可の体力テストだなんて、驚きましたわ」
 百が近くで呟いた。どう答えようか。無難にいくべきか。
「個性ありで低い成績とか、ペナルティがありそうだよね」
 そう言った矢先の
「トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」
「とんでもないペナルティが来てしまいましたわね」
「まあよく言うじゃん? (ruby:Plus Ultra:プルス ウルトラ)ってやつだよ」
 ほら先生も同じこと言ってる。そんで百も納得してしまう辺り、雄英さすがというべきか、生真面目というべきか。どっちもか。
 でもこれ、どうしようかな。私の個性の使い所に悩む。
「お互い頑張りましょう! 使いようによっては私、良い成績が取れると思います」
 (名前)はどの辺りを目標に? とでも聞きたげな様子。……この子の性格にもよるけれど、優しい人ならこの言い方でどうだろうか。
「そうだね……爆豪以上百未満だったらいいかなー」
 それを聞いて百はポカン。どういう返事をしてくれるのかな。
「面白いこと仰りますね。そんなピンポイントな予想、難しいですわ」
 よし、かかった。これは信じていない故の発言だろう。物言いが丁寧だからわかりにくいけれど。確かに否定、戴きました。
「ふふ、そうだね。……1位になれたら良いけどね」
「その意気ですわ。どうせ目指すなら1位でしてよ」
 あらー、そこは本気で応援しちゃうのね。いい子すぎやしないかな。思わず笑みが零れた。
 さっきの爆豪を見るに記録は高い方だろうし、彼以上は確定したわけだ。何位になるか楽しみだね。
 まずは50m走。
 私の個性、実を言うと私でもまだわからない部分がある。それを知る意味でもこのテスト、有意義なものにしようじゃないか。
 爆豪の記録は4秒13。なるほど、両手で個性を使って加速しているのか。
 トータル成績は爆豪以上になることがほぼ確定だけれど、1回1回の成績はどうだろう。
「次」
 私の番が回ってきた。出席番号最後で奇数だと一緒に走る人いないから試しやすい。
 とりあえず中学の時と同じように走ろう。
「ヨーイ、START」
 景色が流れていく。速くなってる気がするなこれ。
「6秒25」
 1秒以上速くなってる。特別に鍛えるとかはしていないから、個性の効果なんだろうけど、爆豪の記録は超えていない。
 次は握力計測か。
 ここらへんからはバラバラに進むっぽいな。爆豪君はいない。恐らく彼は運動神経がとても良いので60,70はいってるだろうけど。
 考えながら計測結果を見る。
「200……!?」
 中学の頃は30前後だし、個性の効果なのは明白……でも、200kg? 思わず声に出してしまった。
「えっ(名前)ちゃんそんな顔して200出すん……?」
「自分でも滅茶苦茶驚いてるから皆まで言わないで」
 お茶子に若干引かれつつも次の種目へ移る。
 その後も色々試したが、どうやら私の仮説は当たっているらしく、爆豪の記録より低いものを埋め合わせる形で高い記録を出したり、トータルすると同じくらいになるような記録だった。
 後はトータル成績発表を待つのみとなった。
 待っている間に少し彼について考えよう。
 彼、というのは緑谷のことである。緑谷は確かに、無個性だったはず。そしてソフトボール投げ2投目までは無個性らしい、個性を使っていないような結果だった。それがソフトボール投げ2投目で爆豪を僅かに上回る記録を叩き出したのだ。
 その後指が腫れ上がっていたことを考慮すると、代償付きの個性?
 ならば今まで見せなかったのも納得っちゃ納得。どの世界でも、個性の発現は4歳までのはず。爆豪が緑谷を散々罵っていたのも、個性が無いからだ。
 それが突然の代償付き個性。普段の彼からして、ずーっと隠してきたとは考えられないけれど。
 個性を使うことによるデメリットはあれど、1度使ったことによって大怪我を負うようなものは特異だ。そのような個性の持ち主なら、今までどこかで話題になってもおかしくないのだけれど、生憎私は2000回余りの世界で彼に関する情報を見聞きしたことは無かった。
 何か引っかかる。「ちなみに除籍はウソな」
「やっぱり……少し考えればわかりますわ」
 百もはじめこそ驚いていたけど、すぐ冷静になってたもんなー。私は騙されかけたわ。
 で、結果はというと。爆豪と私、同率3位でした。なるほど、爆豪“以上”ってことは爆豪も含まれるからね。
「(名前)の言った通りの結果になりましたわね……」
「百こそ有言実行って言うの? さすが」
「ありがとうございます。それにしても(名前)は不思議な個性ですわ、特に使っている様子は無いのに……」
「最初から使ってたよ。気まぐれな個性なんだ」
 百は尚も不思議だと頭を捻っていたけれど、私は緑谷の個性の方が不思議だと思う。それに関してはこれからわかっていくことだろう。
 私の個性の限界も見えた気がする。限界というか、今回みたいな使い方は特殊だけど。
 とりあえず今回で言うと、私自身の実力が爆豪を上回っていない限り、私が爆豪の記録をトータルで超えることは不可能だということ。つまりは最低限しかクリアできないわけだ。今度からこういう使い方をする時は気をつけよう。
 そんでこれは予想なんだけど、今回もし私がはじめに“全ての競技が爆豪以上百未満”だと指定したら、恐らく全ての競技が爆豪と同じ記録になる。
 50m走なら、例え歩いたとしても4秒程で終わるみたいな。
 やっぱりこの個性、はまれば凄く強い……!
 けれど今回私は致命的なミスをした。百の記録が爆豪より下だった場合の事を考えていなかった。
 推薦で入ったと聞いていたから、強いことはわかっていた。結果的には百が1位なので問題ないが、1歩間違えていたどうなっていたのか。無効だった可能性が高い。
 そう考えると危なかった。もっと気をつけて発言しなければ。かと言って怪しまれず、自然な会話の中で隙の無い言葉選びを。
 肝に銘じなきゃ。……念の為近いうちにわざと失敗もしてみるべきか。
「(名前)、戻りませんの?」
 百に話しかけられてハッとすると、グラウンドにはもう数人しか残っていなかった。教室に戻らねば。
「ううん、戻ろうか」
 この感じだと、私は百と行動することが多くなるのかな。席前後だし。満遍なく付き合いをしていくつもりではあるけど、お気に入りっていうのはいた方がいいもの。
 席で言うと、次に近いのは轟焦凍だけど……。轟焦凍……確かどの世界でも体育祭で2位だ。
 そしてオールマイトに次ぐヒーロー、エンデヴァーの息子。
 つまり超強い。
 のでまあ、コミュニケーションを取りたいところではあるんだけれど、如何せん取っ付きにくそうである。
 無表情だし、自分から話すタイプではない。それこそこちらからコミュニケーションを取らなければいけないのだけど、私もどういう話題を振ればいいかわかりかねている。
 だってバラバラの年齢でずっと過ごしてきたんだよ? このくらいの年頃の男子との付き合い方なんて忘れたに決まってるじゃん。
 それこそ、上鳴くらいノリが軽かったら楽だけど。
 そうこう考えているうちに下校時間がやってきた。それぞれが自己紹介をしたりで教室はまだ賑わっている。
 爆豪はさっさと帰ってしまったけど。いいのか、人付き合いは大事だぞ。君そういうタイプじゃないけど。
「緑谷もだけど、喩語も変な個性だよなー」
「えっ何、急に私に振らないでくれない」
「まぁいいじゃねぇか! 親睦会だよ親睦会」
 切島……だったか。この人も要マークだ。
 確かあの日、爆豪勝己を救出しに行った1人だ。そして結果巻き込まれ……本人の前で良くない想像するのは止めよう。この世界とあの世界は別。
「親睦会で人の個性を変だとか、失礼じゃない?」
「でも本当に(名前)の個性不思議だよねー何なの?」
 教えてもメリットは無いな。テキトーに誤魔化そう。
「当ててみ?」
「握力200は怪力だろってことで怪力とか?」
「違う」
「長座体前屈エグかったからプッシーキャッツの虎みたいなやつじゃないの?」
 プッシーキャッツの虎……軟体か。
「ブー。疲れたし今日は帰るわ、また明日」
 この感じだと暫くバレそうにないな。安心だわ。
 適当に別れを告げて教室を出る。
 今日は上手くいった。今後も、ヒーロー科の課題の中で自分の個性を知っていかなきゃ。完璧に使いこなせなければ、私に勝ち目は無い。
 
朝腹の丸薬