「ねえねえ、廿楽ちゃんって縁が視えるんだよね」
 昼休み、藪から棒にそんなことを聞かれて、口からうどんを零しそうになったので慌てて啜った。「急にどうしたの」と聞くと、友人はさぞ興奮した様子で捲し立てた。
「縁が視えるってことは勿論恋愛の様子とかも丸わかりなわけでしょ? うちのクラスにこっそり付き合っている人とかいないのー?」
「えーと、教えたら冷やかすよね? 絶対誰かに言うよね?」
 凄い勢いで目を逸らされて棒読みで否定された。こんな反応、ほぼ肯定しているようなものだろう。
「駄目駄目。個性をそういうことに使うのは禁止じゃん」
「ちぇー」
 私の個性は人のプライバシーに踏み込んだり、影響を及ぼす類いのものだ。迂闊には他人ヘ漏らすわけにはいかない。ただ、自分だけが人間関係を可視化出来るのは便利だった。といっても悪用はしない。寧ろ、より色々なことが円滑に進むよう参考にしているくらいだ。さすがに、別れるカップルを取り持ったりはしないけれど。
 人間関係の可視化……周りから言われるように便利なことも多いが、それなりに疲れることもある。例えばお互いを嫌い合っている人同士に挟まれてしまった時とか、自分のと全く知らない人との縁を結びそうになったこととか、そういう失敗を何度も経験してきた。それもまあ、10年以上も個性と付き合っていれば扱いも覚えるわけで。今はもう可視化も結ぶも自由自在と言っても過言では無い。
「ところでA組って格好いい人多くない?」
 突然がらりと話題が変わった。A組……言わずもがな有名なヒーロー科か。体育祭で目立っていたことは記憶に新しい。普通科にもヒーロー科格好いいって言っている子は多いし、私だって凄いと思う。
「あれよね、轟さんとか凄かったよね」
「そう! 轟君、お近づきになりたーい」
これは暗に私に縁を結べと言っているのかな。到底望みが無い縁を結んだところで、程なくして切れることがわかっているのでスルーする。
「まー、ヒーロー科の人なんて雲の上の存在だよね」
「夢が無いなぁ」なんて笑われてしまったが、こんな個性を持つと人間関係、特に恋愛に関してはシビアになるに決まっている。恋愛となると縁もそう簡単に弄れるものではなくなるのだ。
ボーッと自分の縁を一瞬視ていたら、予鈴が鳴った。友達に急かされ食堂を出る。
何かに引っ張られるような違和感に振り向いたが、何も無かった。きっと髪でも引っ掛かったのであろう。