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クリスマスに天草を酔わせる話

「メリークリスマス」

ほっほっほ、と、アルテラサンタから借りたヒゲをモフモフ触りながら、背中に担いでいた白い袋を下ろした。
ベッドに腰掛けていた天草は目を丸く、いや、それはすぐじとっとした目に変わり、こちらを見上げている。

「ノックもなしに入って来ないでください」
「鍵をかけてない天草が悪い」
「はぁ……それで?なんなんです?」

不機嫌さ丸出しで、とっとと要件を済ませろと言いたげな天草を一瞥しながら、袋から黄金色の杯とワインを取り出した。
それを見た天草の眉がぴくりと動く。

「クリスマスパーティーに顔を見せない君に、私からささやかなプレゼントだよ」
「嫌がらせですか?」
「まさか」

言いつつ、その杯に白いワインを注ぐ。赤にしなかったのは我ながらグッジョブだ。
並々と注がれたそれをずいっと差し出すと、天草がじっと私を見る。

「どういうつもりですか?」
「小聖杯だよ。霊基が強くなるだけ」
「それは分かっています。これは限られたものなのに、私に使っていいのかと言っているんです」
「いいよ」
「……マスターは、飲まないんですか」
「私は未成年だから」
「私も未成年です」
「サーヴァントだからいいんでしょ?たまに飲んでるじゃん。それとも小聖杯、いらない?それ飲まないと霊基に刻めないよね?それともマスターが注いだお酒を捨てちゃうのかな?」

とてつもなく腹の立つ表情をしているだろう顔でまくし立てる。こんなことを言っておきながらだが、天草が飲みたくないと言ったら聖杯だけあげるつもりだ。しかし彼がそう言わないのは分かっている。
彼がこんな不機嫌な理由は、熱病がカルデアを襲った時に真っ先に倒れた天草がオルタに散々弄られたからだ。いつもならジャンヌオルタに弄られるだけで済むが、今回はアルトリオルタサンタにまで弄られている。それはそれは屈辱だったのだろう。クリスマスパーティーに顔を出さずに自室で不貞腐れていたのだ。
そして彼はお酒に弱い。この程度の白ワインならサーヴァントだから酔いはしないだろうが、聖杯に入っているなら話は別。余程の酒豪でなければ酔ってしまうだろう。
そして私は日頃世話になっている天草に聖杯をあげて霊基強化をしようと考えていた。これらを総合させると、つまり!

嫌なことはお酒で忘れて、霊基も強化されて一石二鳥!天草労りクリスマス!
ってことだ!

「ところでマスター、その衣装はなんです」

未だに聖杯を受け取らない天草に指摘される。うっ、気づかれてしまったか。

「ダヴィンチちゃんの、特製衣装です……オルタサンタのマントと、リリィサンタのリボンと、アルテラサンタの服……」
「露出度が高すぎます」
「そうだよねー、私もそう思った。でも今日一日だけでいいからって頼まれちゃったから……今日一日だけね?」
「風邪をひいたらどうするんですか。あなたは人が良すぎます」

天草がお小言タイムに突入しそうだったので、ずいっと再び聖杯を顔に近づける。

「飲むの、飲まないの」
「……飲みます」

ぐび、ぐび、ぐび。
小聖杯といえど250mlはありそうな白ワインを一気に飲み干した。おおーすごい。ぱちぱちと拍手する。
空になった聖杯は光になって天草の体内へと消えていく。

「どう?強くなった?」
「……種火を、使用しないと。上限が、上がっただけ、なので……」

可哀想に息が上がっている天草は、メタい発言をしれっとして布団に倒れこむ。シーツを抱き丸まってしまった。

「天草?大丈夫?」
「意識が朦朧としています」
「明日には記憶飛びそう?」
「そうですね」
「よかった〜。んじゃ、よいクリスマスを」
「待て」

天草は逃すまいとわたしの腕を掴んだ。つもりなのだろうが、ふらふらなので縋り付いているのに近い。

「その格好だとセクハラされます」
「そうだね、近いことはもうされたよ」
「なんですって?なんでそう、平然と……だめです。行かないでください」
「パーティーまだ終わってないよ」
「俺以外の人と楽しむつもりですか」
「えっ?」

私の腕に体重をかけながらふらふらと立ち上がった天草は、そのまま腕を引っ張って部屋を出た。壁に手を添えながらよたよたと歩く天草は、痛いくらいに私の腕を掴んでいる。

「どこいくの?」
「あなたの自室です。せめて着替えてください」
「肩貸そうか?」
「いりません」

5分、いや10分はかかったか。ようやくマイルームに着く。
手を離して扉の横に座った天草は、待っていますと一言言って目を閉じてしまう。
ぱぱっと着替えて部屋まで送り届けようと、クリスマスっぽい魔術協会の制服を着て部屋を出る。

「天草ー?」

ぺしぺし。頬を軽く叩くが起きない。引っ張っても起きない。鼻をつまんでも起きない。

「可愛い顔してるんだからこんなところで寝てたら寝込み襲われちゃうよ」

長い睫毛が微かに震えた。琥珀色が目を覚ます。

「マスター、着替えたんですね。では行きましょう」
「え、天草も行くの?」
「はい。あなたを1人にはさせません」

さっきよりは意識がはっきりしてそうな天草はにこにこしながら立ち上がって、今度は腕じゃなく手を握った。しかし力加減はまだうまくできていなく、私からも手を握らないとするりと抜け落ちてしまいそうなほど軽く握られている。


このあと散々オルタたちに弄られることになるのだが、それはまた別の話。


2017/12/24



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