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包容力があるお兄様

「包容力」

ぼそっと呟いた少女は、私の背中に回している手の力を強めた。

「お父さんみたい」

胸元に埋めていた顔を上げた少女は、口の端を吊り上げて悪そうな笑みを浮かべる。

「どちらかというとお兄様が良いのだがなぁ」

期待されていたであろう返答をすると、目を細めてカラカラと少女は笑う。
いつものマスターに戻ったことを確認した私は、ほっと一息ついた。

マスターはいつもレイシフト後、そこで敗北し消滅したサーヴァントに、涙を流しながら抱擁をしに来る。相手がサーヴァントといえど、未だ仲間が死ぬ場面には慣れないらしい。
私は無名とも言えるサーヴァント。剣技を極めたとはいえあまり性能は良くなく、他の御仁より消滅する回数が多い。
慣れられるのもそれはそれで悲しいが、毎回こう泣かれてしまっては胸が痛い。

「佐々木、いつもごめん」
「なに、お気になさるな。マスターが無事であればそれで良い」

このやり取りも何度目になるだろうか。再び涙を浮かべ、私の胸に顔を埋めた少女に目を伏せて苦笑する。

「お兄様ぁ〜〜!」
「よしよし。よく頑張ったな」


それから幾度となく新規サーヴァントが召喚された為、私は戦線から外れることが多くなった。マスターを身近で守れぬのは少し歯痒いが、これも致し方なし。カルデアで待機しているサーヴァントと対決をしたり、遊戯をするのも悪くはない。
はてさて今日は何をするかと廊下を歩いていると、後ろをつけてくる気配を感じる。
振り返るとそこにはマスターがいた。

「おや。如何された」
「佐々木、その」
「ん?」
「抱きついていい?」
「勿論」

腕を広げると、小柄なマスターがすっぽりと収まる。ぎゅうぎゅうと確かめるように何度も力を込められ、頭をぐりぐりと押し付けられる。
私もマスターの背中に回した手で頭を撫でれば、猫のように擦りつかれた。

「マスター?」
「包容力……やっぱり、落ち着く」
「お兄様でよければいつでも胸を貸すぞ」
「ん……嬉しい」

ドッと心臓が跳ねた。
茶化されるとばかり思っていたせいで、素直に甘えられると心臓に悪い。

「佐々木……ドキドキしてる?」
「いや?」
「嘘つき、心臓うるさいもん。ねぇお兄様?」
「そういうマスターは……顔が赤いが」
「む……なんだが急に落ち着けなくなった……佐々木が変に意識するから」

どうしてくれんの。
そう見上げられ、どうしたものかと少女の頬に手を滑らせた。


2018/5/10



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