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林檎みたいなきみの顔

しゃくしゃくしゃく

「金林檎と銀林檎と銅林檎に味の違いはあるのでしょうか?」
様々な形に変えられたりんごを口に運ぶマスターに問う。
「食べてみる?」
きょとんと目を丸くしたマスターは、皿の上のアップルパイにフォークを突き刺した。
卵黄が塗られ てらてらと輝く表面。持ち上げられたパイは重力に従って欠けらを溢す。
「これは金林檎」
ずい、と目の前に突き出されたアップルパイ。
まさかこのまま口に入れろということだろうか。
一拍空けてマスターと目が合う。特に変わった様子のないマスターを見て、これを口にしないことの方が不自然に思えてきた。
口を開ける。彼女と目が合っている。アップルパイをフォークの先ごと口に入れた。彼女の目が僅かに細められる。するりと抜き取られたフォークが鈍く光った。
彼女は暫く私が咀嚼している様子を眺め、飲み込んだことを確認してから、フォークをスプーンに持ち替える。
「これが銀林檎」
変わらず平然と、スプーンに乗ったサラダが差し出された。
口を開けるという呆けた顔を彼女に見られることが存外恥ずかしく感じて、頬がじわじわと熱くなるが、それに気付かないふりをしてそれを口に入れた。
煮て潰されたじゃがいもとハムと生の林檎をマヨネーズで和え、塩胡椒で味付けされたシンプルなもの。
口を動かしているさまを見られるのもあまり居心地は良くない。手のひらで口元を隠してマスターを見ると、やはり視線がかち合う。そして、何故か微笑まれた。
「で、これが銅林檎」
私が口から手を退けると、フォークに刺したそれが差し出される。
照り焼きの鶏肉に擦り下ろされた林檎のソースがかけられている。
私はマスターから目を逸らて、一口でいただく。
「どうだった?って、料理されてたらあんまり分からないかもね」
ごくり。
三品目を飲み込んでから漸く気が付いた。
味の記憶が残っていない。
「ええ。美味しかったです。違いは分かりませんでしたが」
「そうだよね。私も分からない」
嬉しそうににこにことしているマスターの考えていることがわからない。同じ意見を共有できたことが嬉しいのだろうか。
「きみって案外、いや結構……いや、かなりかわいいよね」
「……え」
同じ年代の異性に あーん をしておいて、感想が かなりかわいい とは。遊ばれた気分だ。
「実は気付いてるんだーきみがマスターに対して猫被ってるってこと。遊園地で見かけて分かっちゃった。だってセミラミスの前だとただの男の子みたいなんだもん。素を出してるっていうの?そういうのちょっと羨ましくなっちゃって。ごめんね?」
悪戯が成功した時のように歯を見せて笑うマスターを見て、先ほどの比ではないほど顔が熱くなる。
「拒否されるかなって思ってたんだけど、ノってくれて嬉しかったよ。ほら、自分で食べますってきみなら言いそうだったからさ」
なるほど確かに。失念していた。何故それが思いつかなかったのか。
「次は……ありませんよ」
「えっ、ご、ごめん!腹立つよね、ごめんね」
「怒ってません」
片手で熱い顔を覆う。あたふたと焦りだしたマスターが、お詫びに良い茶葉で緑茶を淹れると、キッチンへ向かった。一人になってから深くため息を吐く。
可愛い人だと、感想はそれだけだった。


2019/6/9



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