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守るすべ

「それ、どうやっているんですか?」
後ろから声がかかり、振り返る。
銃弾によって穴が空いた魔物がドシャリと落ちる音がした。
「それ?これのこと?」
左手に構えていた銃を頭の横で振った。彼の目がそちらに向けられ、獲物を狙う獣のように釘付けになる。
「ええ。同じ箇所に3発。お見事ですね」
「これはちょっと練習したくらいじゃできるようにならないよ?」
「ふむ。確かにそうですよね。それでなくとも、銃を使えておいて今後損はないかと思いまして」
"今後"それが何を意味するか、今の僕に判断はつかない。彼はいつも通り微笑んでいるし、何を考えているかなんて分からないからだ。
もしそれがマスターを守るすべだとすればいいだろう。だがその逆なら……。
「僕に教わりたいのかい?」
「ええ。嫌なのであれば……望みは薄いですが、まずアサシンのエミヤさんに聞いてみましょうかね」
「彼はきっと教えてくれないよ」
だが、たらい回しにあっていく内に、必ず教えてくれる人物が現れるはずだ。そいつを信用できないわけじゃないけど、彼に何を身につけさせるかは分かったもんじゃない。だから、
「だから、親切な僕が教えてあげる」
「ありがとうございます」
にこり。互いに微笑み合う。妙な空気が流れ出した頃にマスターから声がかかった。どうやら撤収らしい。
「あれ?きみたちいつの間に仲良くなったの?にこにこしちゃって」
「私たちは以前から仲良しですよ」
「そうそう。君が知らないだけさ」
「ええ?そうだったの?」



カルデアの地下には、簡易的な銃の訓練所が設けられている。そこに彼を案内して、訓練用の銃を渡した。
「短銃というやつですね」
「そう。懐に忍ばせるのに最適なやつだよ。ここの職員は全員持ち歩いてるんじゃないかな」
そして威力は然程ない。マスターの魔術礼装を貫くことは無理だ。だが、これを魔術で強化すれば話は別になる。まるで違った性能になるだろう。それを彼がどこまでできるのか、見定めなければならない。
「あそこに的があるでしょ。あれの真ん中を狙うんだ。そう、もっと脇を締めて、照準がズレないように……」
くそ。地味に背が高いな。
背伸びをして横から覗き込んで、彼の手の位置を調整する。
「よし。今の状態を覚えて。そしたら銃鉄を引いて自分で調整してみるんだ」
カチリ。親指で銃鉄が引かれる。僕は自分の腰の銃に手をかけて、万が一に備えた。
「……ふふ」
仮面のような微笑みをたたえていた顔が急に崩れる。困ったような、呆れたような、そんな笑みだ。
「ここであなたを撃ったりはしませんよ」
「……どうだか」
やれやれと戯けてみる。
「撃つのはマスターを害するものが現れた時だけです」
マリーゴールド色の瞳が僕を写し出す。お前も例外じゃないぞと言わんばかりだ。
「それはこっちの台詞なんだけど?」
「おや。私は随分信用されていないようだ」
「当たり前だろ?胡散臭過ぎるし、マスターを裏切ったこともある。今後も裏切らないとは限らない」
「あなただってマスターを殺さないとは言い切れませんよ、少年悪漢王」
一触即発。それを破ったのは、けたたましく鳴り響くサイレンだった。
「緊急だ!特異点を発見した!すぐ向かってくれたまえ!編成はーー」



「「最悪だ」」
四方八方から聞こえて来る悲鳴の先へ銃弾を撃ち込む。それでも仕留めきれない量の魔物に、天草四郎が片っ端から刃を突き立てた。人々に襲いかかる魔物どもは倒れ、辺りはさまざまな生き物の血の匂いで充満している。
マスターを屋根の上へと移動させ、サーヴァントたちは地上を這いずり回る魔物の討伐に専念していた。既に村は壊滅寸前だ。
「君と意見が被るなんてね」
「一つ提案なのですが、二丁拳銃にした方が良いのではないでしょうか」
「検討しておくよ。君だってそれ、機敏性に欠けるんじゃないかい?」
「やはり銃が必要ですね」
黒鍵も遅くはないのだが、銃には劣る。投げる動作が必要だからだ。
しばらく攻防が続き、漸く終わりが見え出した頃。

「みんな!アタランテの宝具使うから気をつけて!住民の皆さんはできるだけ動かないで!」
そう叫ぶマスターに目を向けると、後ろで大型の魔物が爪を頭上に振りかざしていた。
次の瞬間には、眉間に銃痕と空に舞う魔物の腕。
咄嗟に目を向けると、どうやら刀を投げたらしい天草四郎が丸腰で立っていた。
「おい!」
アタランテの宝具が頭上に煌めく。狙って落とされる矢だとしても、僕たちは防ぐのを前提とされている。
驚いた表情の天草四郎に飛びかかり、側の瓦礫の影へと転がり込んだ。背後で地面が抉れる音と、魔物の断末魔が聞こえてくる。
「いたた……ありがとうございます」
「全く、黒鍵はどうしたんだよ」
「全部使ってしまいました。なので刀を」
はぁ、と大袈裟にため息をついて、静かになるのを待った。
「そういうのはマスターが悲しむからやめた方がいい」
「ですが、脳を撃ち抜かれたとはいえ、腕を切らねばマスターが怪我をしていましたよ」
それはまぁ、確かに。
でもあのまま運任せに矢を避けるよりは他にあっただろ。逃げるとか、隠れるとか。
「それより、あなたの方がマスターを助けたことで怪我を負っていますが」
「へ?」
身動ぎをすると、鋭い痛みが背中に走る。
確かめると、ぬるりとした感触と、指にまとわりつく生温かい血。
「先程魔物を撃った後、後ろから別の魔物に切り裂かれていましたよ」
「おいおいそういうのは早く言ってくれよ……最悪だ……無傷で戻りたかったのに」
「では返り血ということにしておきましょうか」
天草四郎が僕の背中に手をかざすと、温かい光に包まれた。徐々に傷が塞がっていくのを感じる。
「君に借りができたね」
「では銃の使い方を教えて下さい。それでチャラにしましょう」
「しょうがない。今度はちゃんと教えるよ」

「ビリー?天草ー?どこにいるの?……あ」
あ。と言って固まってしまったマスターを見て、今自分たちの体勢に気がつく。
僕が天草四郎に馬乗りになって、天草四郎は僕の背に手を回している。
「あ、えっと……きみたちの仲の良さをちゃんと理解できてなかったよ。ごめんね。もう帰るから、あとはカルデアでごゆっくり……」
「まっ、まってマスター!違うんだって!誤解だ!」
「そうですマスター!誤解です!」
「いいのいいの!隠さなくても!私偏見とか持ってないし君たちを変な目で見たりしない!でも人前でいちゃつくのはやめてね?」
「だからマスター!」
「違うんですってば!聞いてください!」
「あとさっき助けてくれてありがとう!カルデア帰ってから馴れ初めとか聞かせてね!」
ぽっと頬を赤く染めた可愛いマスターが踵を返して去っていく。

「「最悪だ……」」



2019/10/27



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