高校一年 04/10(木)


「…にやけとるとこ申し訳ないんやけど、もしかして自分相当のマゾ?嫌い言われて喜んでんやろ?」
「違います…」


そりゃ悲しいけど、わたしも自分が大嫌いだから、一氏くんが嫌いになるのも頷ける。べつにおかしなことじゃない。それを告げれば、早苗ちゃんは腕を組んで、う〜んと唸った。


「…ところで、本題や。」
「あ、はい。」
「舞、あたしと一緒にマネージャーやらへん?」


口が開いた。これが世に言うアホ面ってやつかなぁなんてとんちんかんなことを考えていた。って言うか、こないだ白石くんに言われたとき、早苗ちゃん嫌そうにしてたのに。手の平返すような態度にちょっとびっくり。でもわたしだって、何日かで答えが変わるわけではない。


「わたしは…やらないよ。」
「なんで?」
「…わたしなんかが、出来るわけない。」


そう、やらないんじゃなくて、出来ないの。だってそうでしょ?わたし、人見知りなのに知らない人たちの中で仕事なんて出来ない。気が利かないのにお世話なんて出来ない。でも、早苗ちゃんはすごいね。


「人見知りやったら、直せばええやろ?」


そんな考えはまったくなかった。早苗ちゃんの方を見ると、にこりと笑ってくれた。あんたにも出来るよ、ってそう言ってくれてる気がした。わたしにも、出来るかな。直せるのかな。先輩たちに言い返したことですら大進化なのに、それ以上進めるのかな。


「出来るよ、舞。あんたはあたしのれっきとした友達なんやから!」


じわりと浮かんだ涙。うれしい時なら、泣いてもいいよね。わたしはこぼれてくる涙を次々に拭った。れっきとした友達、その言葉を再び聞けるなんて思わなかった。もう一度、早苗ちゃんはマネージャー一緒にやろうって言ってくれて。わたしは泣きながら頷いた。


「早苗ちゃ、大好き…」
「ほんま?あたしも舞んこと大好きや。」


早苗ちゃんはわたしの肩を抱き、頭を撫でてくれた。すごく近くて、あったかくて。菊丸くんはやっぱり男の子だったから、友達であってもこんなに近付いたことはない。早苗ちゃんは同じ友達でも、女友達…。ぼろ泣きのわたしと至近距離で目が合って、照れ臭そうに二人で微笑み合った。その時だった。部室のドアが大きな音を立てて開いた。


「早苗ー!う、浮気かー!死なすどー!」


入って来たのは白石くんだった。後ろからぞろぞろと忍足くん小春ちゃん一氏くんと続く。みんな、何故か笑っている。早苗ちゃんも一瞬止まったけど、あっはっはと笑い出した。


「白石、似てへんやろ!」


白石くんは顔を真っ赤にして恥ずかしそうだった。誰かの真似をしたのだろうけど、わたしには分からない。やっぱり、この疎外感からは逃れられないのかな…


「あ、今のな、ユウジの真似やねん。」


しかし予想外に、早苗ちゃんが振り返ってわたしに言った。え、と小さく声がもれた。すると、小春ちゃんがにっこりとわたしに笑いかける。


「舞ちゃん、泣いとる顔もかわええなぁ。もうほんま、食べちゃいたいわぁ」
「う、浮気かーっ!死なすど!」


一氏くんがわたしと小春ちゃんを指差して、その腕をぶんぶん上下に振った。それからすごい険相。でも、そっか。わたしにも分かるように、やってくれたんだ…


「…ふ…、あはは!本当だ、白石くん全然似てないねっ」


ねぇ、わたし笑えた。ここのみんなと一緒に。この笑い声が溢れる中に、わたしもいるの。一人じゃない。みんなの輪の中に、わたしも入れたよ。