高校一年 06/19(木)
部活中、驚くべく発言に思わず箒を持つ手が止まった。部室の掃除中、何故かみんなの休憩が重なって、早苗ちゃんの真剣な声色から始まった。
「舞、転校するってほんまなん?」
突拍子のない言葉に小さく「え?」と聞き返すと、白石くんが「ユウジがそう言っとったけど」と言われてさらに焦った。だってわたし、転校するなんて一言も言ってない。一氏くんと喋ることだってそんなに無いのに、なけなしの記憶を思い返すと一ヶ月くらい前の大変だった時期、わたしは彼に東京に戻ると伝えた。確かに、自分の覚悟を一氏くんにだけ伝えたけど、まさかそれ?
「てっ、転校なんてしないよっ」
慌てて誤解をとくと、みんなは拍子抜けしたように揃って溜め息をついた。みんな、って言っても早苗ちゃんと白石くんと忍足くんと小石川くんしかいないけど。小春ちゃんと一氏くんは休憩中も二人でネタ合わせをしてるらしい。
「ごめんなさい!わたし、みんなにはまだ言ってなかったけど……、夏休みに一度東京戻ろうと思ってて」
「夏休みだけなん?」
「う、うん、一週間くらいのつもりだけど…」
「なんやー、そんだけか。」
あははー、と背後にお花畑が見えそうな雰囲気に安心。けれど肝心の一氏くんは誤解したままで。なんだか申し訳なくなったけど、でもすぐに喜ぶ一氏くんが想像できてしまって、胸が痛んだ。どうでもいいような感じで、「はよ行けばええのに」なんて言ってる姿が頭に浮かんだ。
「わたし、小春ちゃんには言っておいたんだけどな…」
小さくそう呟くと、白石くんはすかさず聞き返してきた。わたしは東京に帰ると決めた後、悠紀に手紙の返事を書き、一応小春ちゃんにも報告しておいた。小春ちゃんはみんなと一緒にいた時、誤解をといてはくれなかったのだろうか。
「小春何も言ってへんかったで?」
「おかしいなぁ…」
「あ。」
わたしと白石くんの会話を、早苗ちゃんの声が遮った。何か分かったのかと聞こうとしたら、その前に早苗ちゃんは小声で白石くんに何か言って、次にわたしに向き直った。
「ユウジの誤解はあたしがといたるから。任せとき!」
何故か胸を張って言う早苗ちゃんに不安を覚えた。別に、いまさらとかなくてもいいけど。
「きっと…本当に転校した方が、一氏くんは喜ぶよね…」
無意識に出た言葉が早苗ちゃんに届いたかは分からないけど、慌ててごまかして、再び掃除を始めた。