「おー、焦凍じゃん」

日曜日の朝10時。
私の家への訪問者は幼馴染の轟焦凍だった。

「これ、お前に」

それだけの言葉と一緒に差し出されたのは2つ折りにされた和紙。
私が作った和紙だ。

父が和紙作りの職人なので、ごくたまに私も和紙を作らせてもらうことがある。

綺麗だと思う淡い色で端を染めた私だけの和紙。
この前作った和紙を焦凍がすごく綺麗だと気に入ってくれたので私の作った和紙を数セットあげたのだ。
どうせ店には出せないし私が持っていても持て余すだけだったので貰ってくれて、焦凍もとても喜んでいたようなので嬉しかったのだが、これは返却されているのだろうか。

返却にしては1枚だけというのはおかしいけれど…。


焦凍の指につままれた和紙を見たまま首を傾げる私に、さらに和紙をぐいっと突きつける焦凍。

「俺が帰ったら、お前の部屋でこれ開いてくれねぇか」


おずおずと受け取ると、焦凍はすぐに帰っていった。






自分の部屋に戻って2つ折りにされた和紙を開くと、筆で書かれたであろう美しい文字が目に入った。

好きです。

好きです…?何が?
私のこと?和紙のこと?


正直、焦凍が私に好意を寄せているのは薄々気付いていたのだけれど、この言葉だけだと私のことなのか和紙のことなのかわからない。


スマホから充電ケーブルを引き抜いて、メッセージアプリを起動する。

〈お前ばかなの?〉

と送信した。

〈なんでだ〉

とすぐに返信が来た。



〈何が好きなの〉

〈なまえのこと〉

〈やっぱ焦凍ばかじゃん〉
〈こんなの私のことが好きなのか私の和紙好きだよって褒めてんのかわからない〉

〈悪い、手紙書くならお前のくれた和紙使おうと思って〉
〈お前の和紙も綺麗だから好きだけど〉

〈これが手紙かよ〉
〈嬉しいけど〉

〈うん〉

〈で?〉

〈え?〉

〈私のことが好きで、どうしたの?〉



既読無視だ。












お昼すぎにまた家に誰か来た。
玄関に出ると、また焦凍だった。
また、2つ折りの和紙を押し付けられて、今度は何も言わずにすぐに帰っていった。



部屋に戻って和紙を開くと、付き合ってくださいと書いてあった。
その横に喜んでと書いてみた。
焦凍の字より私の字の方が汚い。ちょっと嫌だ。


〈お前やっぱばかだよめんどくさい〉

メッセージを送信して、家を出た。




轟家のドアの前で呼び出しを押した。
すぐに焦凍が出てきた。
和紙を渡して何も言わずに帰ってやった。