小学4年生の頃、おかあさんがおとうさんに殺された。ピアノ線で首をすぱっと切られて、血がドバドバ出て死んだ。私の顔にもたくさんの血がついた。
ふとその血を舐めた。心臓がばくりと大きく脈打って頭の中がぴりっと痺れて、これだ、と思った。

おにいちゃんが怒っておとうさんを殺した。包丁でざくざく何回も刺した。
おかあさんの血の味が忘れられなくて、おとうさんのお腹からどくどく流れ出る血を飲んでみた。おかあさんよりは美味しくなかったけど、血ってどんなジュースよりも美味しいんだなあと思った。

おばあちゃんが、おとうさんを殺したおにいちゃんと私を見てバケモノだと言った。とても怯えていたと思う。
でもねおばあちゃん、おとうさんはおかあさんと私たちをいじめていたから、おにいちゃんは悪くないの。おばあちゃんの耳には全然届かなかった。





私とおにいちゃんは親戚中をたらい回しにされた。
父親の血を飲んだ私の異常性ばかりに目が向けられて、みんな私を怖がるようになった。




おにいちゃん、私、おかしいんだよ。心の中でのどが渇くんだよ。そうしたら、血が飲みたくなるんだよ。
なまえがどんなにおかしくても、おにいちゃんはなまえが大好きだよ。たったひとりの本当の家族だからね。









おにいちゃんが社会人になった。貧乏だけど、ふたりぐらしはとても楽しかった。







聞いてよなまえ。おにいちゃん、大好きな漫画があるんだ。主人公が仲間たちと冒険をしながらだんだん強くなって、おとうさんを探すんだ。念っていう能力を使って戦うんだ。悪役もかっこいいんだよ。幻影旅団っていって、ものすごく強い盗賊グループなんだ。ほとんどのメンバーが流星街っていう、なんでも捨てていいところの出身なんだ。

ふぅん。じゃあもし、ここがその漫画の世界なら、おにいちゃんと私はリュウセイガイってところに捨てられてたね。


















ごめんねなまえ、おにいちゃんは周りの人になまえのことをバケモノだって言われるのが辛くて、もう生きていけない。

お手紙を遺して、おにいちゃんは自分のお腹を包丁で貫いて死んでいた。
私が見つけた時はまだ硬直していなかった。私はおにいちゃんの血を飲めるだけ飲んだ。たくさん飲んだ。いっぱい泣いた。私は高校生だから、血に嘔吐作用があることは知っていた。でもたくさん飲んだ。

気持ちが悪くなってトイレに駆け込んだ。便器に向かってゲエゲエ吐いた。
トイレを出ると、そこは公園だった。

とてもびっくりしたけど、街に出るといろんな看板の文字がおにいちゃんの好きだった漫画の世界の文字と似ている気がした。ちょっぴり安心した。
















今日も私は人を殺した。心の中でのどが渇いたので、血を飲むために殺した。
人を殺すのは悪いことだ。ごめんなさい。ごめんなさい。

この世界に来てから、私はたくさんのごめんなさいの中で生きている。