本日はミカちゃんが久しぶりに彼氏さんとお昼ご飯を食べるという。
彼氏さんの友達も来るそうだからみょうじと桜坂もおいでと言われた。
「ねえミカちゃん、どこで食べるん?」
「屋上よ」
「屋上って開放されてるんだ?危ないからどこの学校も屋上は立ち入り禁止かと思ってた」
「立海は中学も高校も屋上出入り自由なの!屋上庭園の花もミカの彼氏の幸村くんが管理してるし、それを見に行く生徒もままいるんだよ」
「ほー」
「ここ、ほら屋上」
そう言ってミカちゃんが扉を開けると、典型的な学校の屋上とは少し違う風景が見えた。
少し広くて、奥の方に花壇があるのが見える。その横には水道もあるようだ。
扉から出て振り返ると、そこは普通の屋上と同じく出入口の裏側から給水塔が覗いていた。
空が晴れているので、この天気の中で花の近くでお昼をするのは心地よさそうだと思う。
ミカちゃんについて行って、ミカちゃんが座った隣に座る。さらにその隣に桜坂ちゃんが座った。
「こちら、話にもよく出してた私のなまえ」
「前から思ってたけど私のって?私の友人じゃなくて?」
「何よ桜坂、文句あるの?なまえは私の友人なのだから私のよ」
慈愛に満ちた目で私を見るミカちゃんの姿に嬉しくなって、でもミカちゃんの彼氏さんやらがいるのになあと恥ずかしくも思って少し照れ笑いした。
「やあ、はじめまして。俺は幸村精市。ミカから俺の話聞いてたりする?」
「します。いい彼氏さんのようで羨ましい限りです」
「あそっか、みょうじ…いや、なんでもないわ」
危うくミカちゃんが話の拗れそうなことを言いかけたけれど、途中でやめてくれた。幸村先輩は何のことだと首を傾げた。
「俺丸井!」
「え、そうですか?あんまり丸いようには見えないです。普通体型なんじゃないですか?」
桜坂ちゃんに「名字が丸井!丸井先輩!」と耳打ちされて驚いた。申し訳なくなってすみませんと謝ると、ものすごく複雑な表情をされた。
「で、これが赤也……って赤也、お弁当食べるのはせめて初対面の人への挨拶が済んでからにしたらどうだい」
「ふみまへん」
うわあこの人口に物を入れたまま謝った。印象が悪い。
「俺、たぶんお前と同い年だぜ!えっと…みょうじ!1年!」
「あー、うん、よろしく。あの、次からは口ん中空にしてから他人に謝ろうな」
「おう!」
めちゃくちゃ素直な人だったようだ。
「最後に、この人は仁王先輩」
「プリ」
「えっ。何の鳴き声なのこれ?新しいな」
桜坂ちゃんに「仁王先輩の口癖みたいなものよ!」とまたもや耳打ちをされて、すみませんと謝ることになった。
みんなでいただきますをして、ご飯を食べ始めた。
話を聞くに、中学時代のレギュラーメンバーからイツメンになった人があと4人いるそうだ。またお会いすることがあれば挨拶致しますとは言ったが、その4人の紹介の中で気になることがあった。
「あの、さっき柳先輩って人のデータに皆さん絶対の信頼を寄せてるって仰ってたけど、ひとついいですか?」
幸村先輩がこくりと頷く。
「この世に絶対は存在しないので、かなりの高確率で合っているので信頼出来るって程度の認識に改めた方がいいですよ。絶対を信じてっといつか痛い目見ますんで」
ミカちゃんにぽこりと頭を叩かれた。
「こら、理屈っぽくなるのと何でもずけずけ言うのは控えなさいって言ったじゃない」
桜坂ちゃんは「ええー、なまえって理屈っぽい奴だったの?」と冷やかしてくる。
「あはは、さすがにミカの親友だけあってみょうじさんは面白いなぁ!大丈夫、言い方を間違えたね、もう俺たちは理屈じゃないことがデータを越えるのを見たことがあるからね。柳のデータを完全に信頼してはいるけど、みょうじさんの絶対はないっていうのはとてもよくわかってる」
「ミカちゃんの彼氏さんは話通り寛容な人なんだね」
と言うと、桜坂ちゃんが早くも食べ終わったお弁当の蓋を閉めながら
「でも私ちょっとひやひやしてたわー」
と言った。
「お昼ご飯食べたら眠くなってきた」
「待ってみょうじ、あんまりたくさん食べてないし食べたすぐだよ!?おい、シャキッとしなって!」
「いやぁムリだ桜坂ちゃん…。私のお弁当は白米と焼きそばとスパゲッティだった………つまり炭水化物がたくさん…………眠気は飯の量やのうて炭水化物の量……なん…やで」
「分かってるなら炭水化物ばっかり入れずに肉魚野菜をちゃんと…ってもうほとんど寝かけ!!!」
ほとんど意識が飛んでいたがミカちゃんが後頭部をスパンと叩いてくれたので少し目が覚めた。
ほら帰るよとミカちゃんに手を引かれる。
テニス部の4方に目を向けて
「ごちそうさんっした……ちゃう、えーっとありがとうございました」
教室に帰りつつ「肉と主食になる物は好きだけど魚とお野菜苦手なんだよな」と呟くと、桜坂ちゃんが週2でお弁当作ってきてくれることになった。
やはり桜坂ちゃんは母性溢れるケバケバ大魔神である。
→