跡を濁して

ふわりふわりと、1枚の黒い羽が風に乗って落ちてきた。足元に落ちたそれは、よく見れば黒よりも淡い綺麗なダークグレーをしている。
木箱に座ったまま手を伸ばして取ったそれは柔らかく、そして仄かに温かい。まるで先程まで誰かが握っていたような温かさだ。羽柄を指先で摘んでくるくると遊ばせてみれば、羽は陽の光に透かされる。

「何ですか、それ」
「羽だ」
「いやそれは見りゃ分かりますって」
「キャプテンたまに変なの拾いますよね!……っていうか、その羽」
「……似てるな」
「気の所為では?ただの鳥でしょ」

ローの手にある羽に気付いたペンギンは、僅かに自身の身体が強ばるのを感じた。鳥ではないというのは自分が1番よく分かっている。ローを茶化すシャチも何かに気付いたらしく、金魚のように口をハクハクさせている。

周囲の雑踏が聞こえなくなる程、彼らの意識はその1枚の羽に向けられている。だからローの後ろで鬼哭をぎゅっと抱えて鼻を鳴らすベポの声は小さくとも余計響いたのだ。

「それ、ルディの匂いがするよ」

たった一言、されど一言。
緊張と安堵と疑心と……一気に様々な感情が湧き上がる。ベポは白熊だから人間より鼻が利くし、例え今離れていたとしてもガキの頃からずっと一緒に生活していたのだ。匂いを間違えるはずがない。

「冗談止せよ、ベポ」
「でもホントにルディの匂いするんだ。色も同じだし、もしかして」
「……案外、近くにいるかもしれねぇな」

そう呟いて、ローは顔を上げ軽く視線を動かす。そして道すがる往来の中、反対側の通りを颯爽と歩いていく1人の仮面の女が目に入った。身なりは変わっても見間違えるはずがない。あれは、多分。

「……おい、あれ」
「え?いやいやいやそんな都合よく……いるわけない、ですよね?」
「キャプテン、ルディ見つけたのか?」
「あぁ、見つけた」

シャチとベポが何処だ何処だと騒ぐ中、ローは人の悪い笑みを浮かべて言う。既に姿は見えなくなっているが確かに今、ルディはこの場にいた。

「見つけたんなら追いかけましょうよ!」
「そうだよキャプテン!」
「まぁそう焦るな。この島はそんなに広くねぇ、すぐにでも会えるだろうよ」
「そんな悠長な、」
「なァ、ペンギン」

ローは今まで口を閉ざしていたペンギンの方を向き、お前なら分かるだろと言う風に目を細める。スッと差し出された羽を渋々手に取りながら、ペンギンは大きく溜息を吐いた。

「まだ、出来るかわかんないですよ」
「なになに、どういう事?」
「……本当にコレがルディの羽なら、居場所の特定は出来るんだ。知ってんのは俺とキャプテンだけだがな」
「えぇ!お前らだけずるいぞ」
「なんでペンギンとキャプテンだけ?」
「知ってる人が多ければ多い程効果が薄くなるんだと。本人も実力不足だってしょげてたけどな……じゃあ、やりますけど期待はしないで下さいね」

自分達にルディの知らない事があると不満気なシャチとベポだったが、居場所が分かると知り2人は目を輝かせた。
もしこれがただの羽でルディではなかったら?……そう考えるだけで期待とこれから見るかもしれない失望が押し寄せてくる。自分に言い聞かせるかのようにも一言置いてから、ペンギンは手の平に羽をそっと乗せた。
これが本当にルディの羽であれば、まだ彼女が俺らと縁を断ち切ろうとしていなければ……

羽返りハイム

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