閑話休題・乙女の告白


「まぁじで一緒の墓入りたいくらい好きな子いるんだけどさァ、聞いてくれるか?」

目の前の男が長い睫毛に縁取られた眼をきらきらさせながら、こちらをじぃっと見つめてくる。まるでこれから恋バナでもしようと言う話し方だが、ここは人どころか動物の気配すら無い見知らぬ夜の森の中であり、まさにこれから「スクラップ!」される直前であった。

元はと言えば女が企てた夢のような逃亡劇がきっかけだった。多額の借金を背負い、夜の街で働く彼女と恋に落ちてしまった哀れな自分。間違いなくそこに愛はあったし、逃亡が成功したら海外に逃げて、何処か知らない土地の小さな家で2人で暮らそうね。なんて。
そんな夢物語を語り、仕事の時とは違う朗らかな笑みを浮かべていた彼女は、既に隣で美しさの欠片も無く冷たくなっている。

「なァー聞いてる?」
「ん"ー!」
「ハ?汚ぇ声出すなよ。これから俺とアイツの純愛の話すんだから黙れや」

理不尽である。だが騒げばきっと彼女よりも凄惨に無様に殺される。縄を噛まされて地面に転がされている男は口内に溜まった唾液と声を必死に飲み込み、ただ黙るしか無かった。

「ガキの頃にさー、苺のショートケーキ潰されて年上の男に喧嘩吹っ掛けた馬鹿がいたんだよ。まァ全員伸してんだからすげーよなぁ。でも顔面からだらだら液体と血だしてさ、ブッサイクな面して泣いてやんの」

怪我よりケーキが潰れた事で泣いてんの、ウケるよなァ。と、言いながらも目の前の男は記憶を思い起こすように柔く笑む。

「でも何だろうな…可愛かったんだよなァそのぐっちゃぐちゃの面が。ケーキ如きに必死だなって思ったら可笑しくて、一緒に新しいケーキ買いに行ったんだよ。んで上に乗った苺やったらクッッソ程にこにこするワケ」

目の前の男は夜闇にも紛れない鮮やかなピンクの髪を風に揺らし、空を見上げる。

「いやー俺もガキだったんだよなぁ。そんだけの事に絆されて…初恋は実らねぇって言うけど、どう思う?今地獄の果てまで鬼ごっこしてんだけど」
「ん"…」
「だーから喋んじゃねぇよ」

パシュン、とサイレンサーの付いた銃から放たれた弾丸が額を撃ち抜いた。一発で終わらせたのは話を聞いた駄賃だ。地面には血溜まりが滲み、二つの亡骸を夜風が撫ぜる。
仕事を終えた男は部下に後処理を任せ、近くに停めておいた車へと乗り込んだ。「出せ」と一言だけ告げれば、バックミラー越しに映る男が頷いて車は動き出す。

「なァ、地獄ってあると思うか?」
「無信仰なので分かりかねますが、恐らくは。ですが現世も充分地獄かと」
「……ハハッ、鬼も楽じゃねぇな」

珍しく正気な上司の機嫌がいい。
こんな事を言えば酷い時には発砲するような人だが、背もたれをガシガシと蹴る事すらしないのだから相当だろう。ちらりとバックミラーを覗いて上司の顔を伺うと、窓に反射して映ったその表情はどこか憂いを帯びていた。

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