▼2022/07/06
△梅雨
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梅雨は嫌いだ。
私は左手で頭を押えながら、恨めしい気持ちで廊下の窓から外を見やる。朝から降り続く雨は放課後になっても収まる気配はなく、むしろ勢いが増しているようにみえた。
こんな日は"諸事情"によって先生に会いにも行けず、薄暗い曇り空は私の心象そのものと言える。
「はぁ……」
「どうしたんですか、溜息なんかついて」
「ぎゃあ!」
背後から聞こえた声に驚き声を上げ、振り返る。
「先生! びっくりするじゃないですか……あっ!」
思わず左手を放していたことに気づき、慌てて頭を押さえる。
「? さっきからどうしたんです。頭痛でも?」
「いや……その……。い、嫌です! 言いません!」
先生の視界に入らないよう顔を背けて隠そうとするが、そんな私を見て先生はなにか気づいたように「あぁ」と呟いた。駄目だ、言えない、バレたくない。特に先生には――。
「前髪ですか?」
「あーーーっ!!」
恥ずかしさに顔を隠すと、押さえられていた前髪が自由になり、くるりんと跳ねた。
――梅雨は嫌いだ。ただでさえ跳ねている髪の毛が、湿気によってさらに暴れるから!
「そんなに変わらないですよ」
「変わるんです! 前髪の出来は乙女の矜持に関わるんですよっ!」
「えぇ……」
心底どうでもいいとでも言うような声色の嘆嗟が聞こえるが、やはり譲れない。こんな姿を晒すくらいならと、昼休みも放課後も先生に会いに行くのを控えていたのだ。
髪を押さえて俯く私に、先生がため息混じりに続ける。
「今日は姿が見えないと思ったら、そういう訳ですか。……心配して損した」
「……えっ」
今なんて、と聞き返そうとしたが、顔を上げることは叶わなかった。視界にはさっきより近くにいる先生の足元がある。これより視線が上がらないのは、目の前の人の手が自分の頭に乗っている為だと、理解する前にまた声が聞こえる。
「気をつけて帰ってくださいね。また明日」
そのまま跳ねた前髪を押さえるようにして頭を撫でられ、手が離れる。
「え?」
何が起きたのか。暫く固まって、今度こそ顔を上げた時には先生はとうにどこかへ行ってしまった後だった。
「……うそ」
しとしとと雨音のみが響く廊下で、しばし立ち尽くす。頬の熱さを確かめようと手を顔に当てると、視界の端で前髪が揺れた。
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