まとめ




【心臓のレシピ】
 俺は愛7 恋3の容量でなまえを思っている

【あのこのあいは水溶性】
 なまえが受け止めきれなかった分は体外に排出されなかったことにされてしまう。(キャパオーバー)

【健全な僕ならこう言うだろうさ】
 大丈夫?と聞いて、君を優しく抱きしめるだろう。
それなのに、君が泣いてるのを見ないふりすることしかできない俺は、意に反しているかもしれない。
けど、俺は知ってるから。
そばにいて抱きしめてあげることだけが優しさじゃないってこと。それがなまえのためにならないことも、俺は知っている。
だから扉越しに、君の鼻を啜る音を聞くよ。
もしまた同じことがあったら。
泣いている君を受け止められるような大きな人に、それまでになるから。
今は見過ごす俺を許してくれないか。

【きみの平凡な水槽において】
 君の世界の物差しで勝手に測られても、それに応えてあげることはできない。私には私のものさしがあって、大事なものが人それぞれなのはもちろん、何かを犠牲にしてまで守っていきたいものが私にはある。
そんなこと、君には分からないだろうけどね。
(2世タレントになめられかまかけられ惚れられる、災難ななまえちゃんの話)

【使い捨てシンデレラ】
 時には女として役に立つ使われ方をされて上げます

【僕の地獄に咲いていた花です】
 それは色とりどりの花が束ねられたミニブーケだった。黒いリボンと、開くと音が鳴る仕様の小さなメッセージカード。嫉妬に狂った北斗がおかしくなって花束の中に何か小物を忍ばす話。
(それをしたところで安心するわけじゃないんだけどね)

【ばいばいに呑み込まれる前に】
 山田。別れた後とかだといいかな。ランチで山田はパスタとカレーを。なまえはサンドイッチを頬張りながら、久しぶりに2人で食事をすることに。たくさん食べる山田が好きだったことを思い返すなまえはいるし、若いあの頃と違う今ならなまえと問題なく過ごせたんじゃないか、とぽろりと溢す山田がいる。それでもそれ以上でも以下でもない変わらない関係。同じようなことを2人が思っていたとしても、現実に立ちはだかる見えない壁は、いつしか高く分厚くなっていた。山田は壊すことも、超えることもしないが、時折近くで様子を伺っているらしい。目的を問われると答えられないが、それが自分のためにも、相手のためにも、最善の策だと山田は思っている。
(成長したな)

【彼が夜なべで編んだ海の火】
 約束の日に帰らなかったなまえ。お家に帰ると鼻にくる芳ばしい香り。においの元を辿り、鍋の蓋を開けると、そこは真っ赤に色付いたカレーのようなもの。
北斗「おかえり」
背後から声をかけられびっくりするなまえ。
『た、だいま』
北斗「随分遅かったじゃない」
『昨日、連絡できなくてごめんね』
北斗「そういうときもあるでしょ」
『(北斗が怒らない⋯⋯?)』
北斗「ご飯は食べた?」
『いや、』
北斗「温め直すから、手洗っておいで」
北斗の進言通り手洗いうがいを済ませ、定位置のテーブルの椅子を引いて腰を下ろす。
『昨日カレーだったの?』
北斗「今日もカレーだよ」
『(赤すぎない?)』
七味入れたとか入れてないとか、そんな話じゃないくらいに色付いちゃってるけど大丈夫かな?激辛は得意じゃないんだけど。
北斗「有吉さんの番組でさ、こういうのあったよね」
『え?』
北斗「激辛料理、10分で食べ切れるかって」
『うん、見たことあるよ』
北斗「なまえにいつオファー来てもいいように練習してもらおうかなって。ほら、アイドルだから悲惨な顔晒せないじゃん?俺らは良くてもなまえは女の子なんだから、守らなくちゃいけないものが多いでしょう?それに俺としてもなまえのだらしない顔は地上波に流れてほしくないしさ。アイドルはほら、いつでも笑顔で夢を届けられなくちゃ困るでしょう?」
『ほくちゃん、今日はよく喋るね』
北斗「バカ言え、俺は結構しゃべる方だ」
『ぷっ(リヴァイへいちょかよ⋯⋯)それにしても、色が⋯⋯』
北斗「これは俺からの愛情」
『はあ』
北斗「受け取ってくれるよね?」
にこり。貼り付けたような笑みを浮かべる北斗。笑っているはずなのに、北斗から目をそらせたくなるのは何故だろう。この状況、珍しく拒否権がない。
『⋯⋯いただきます』
北斗「たんと召し上がれ♡」

【あのひとのうやむやを笑わないで】
 樹目線。そうでないと守れないものがあることを俺は知ってしまった。つい先日まで自分もそちら側だったが、今は声を大にして威張って言いたい。あれはなまえなりの立派な自衛行為だと。

【袖のみぞ知る】
 Jr.の誰か目線。北斗がなまえにキスをした現場を見かけてしまう話。浮所とかガリ〜が適材適所かな。?

【包帯ないからクレープ焼こう】
 疲れ気味のきょもとクレープパーティー。
『買った方が美味しいね』
京「全く同じに作れないものなんだね」

【骨は白いあなたは甘い】
 魂に骨があったらいいのにね。そしたらお守りにして形に残せるのに。

【きみは可愛い私の牢獄】
 なまえが北斗へ思う感情。
君が守ってくれる分、私は弱くなる。
君と過ごした時間の分だけ、私は弱さを知る。
君は私のものじゃないし、私も君のものじゃないけれど。
それでも、心の奥底ではそうであることが当たり前のように思ってしまう自分がいる。
この感情に名前をつけるとしたら。
依存、と簡単に言えてしまったとしたら、それはあっさりとした感情で。
綺麗に言えば、家族と表現するのが解するのだろうか。
表現豊かな日本語を話しているのに、自分の感情に名前さえ付けられないのであれば、宝の持ち腐れもいいところだ。たとえこの世界の言葉の意味が全て載っている辞書を引いたとしても、当てはまる言葉はないのだけれど。恋だとか愛だとか、そんな陳腐な言葉で片付けられたらどれだけ楽になれると何度考えたことか。
君は私を知りすぎているようで、私のことを何にも知らない。
君がわかるはずがないんだ。
だって、私が私のことをわからないんだから。
それでも私はまた、君に頭を預け寄りかかるのだろう。
私と君は、強固に結ばれてるように見えて、実際は儚く脆い、きっとそんな関係性だ。

【誓えないなら目を閉じて】
 北斗からの告白に言葉を返せず黙っていると、何も言わなくていいから目を閉じて。それを返事として受け取るから。北斗はそう言った。
ここで目を閉じる意味が、私はわからなかったので北斗の言葉に従った。
⋯⋯否、本当はわかっていた。これだけ一緒にいるのだ。思考パターンが読まれれば、読めるようになることだってある。それもそう。何年も、何百時間も、下手すりゃ家族より一緒に過ごしている仲間だ。私だって、彼のことを少しは理解しているつもりだ。
だからきっと、私は狡い。

「ありがとう」

北斗がそう呟いたのが聞こえると、唇に優しさが触れた。
それはまるで私を守るように暖かく、柔く、優しいのだ。

頬にひとすじの雫がつたうのがわかった。悲しきかな、それは右目から零れ落ちているようで。

甘邪気なのは、一体どちらか。

【涙ばかりが冷たいか】
 事後。風呂に入らず繋がったまま眠りについてしまった日。
『⋯⋯うそ、』
こんなことって本当にあるんだ。

珍しくジェシーより先に目が覚めた。
重たい腕を振り払っていると、下半身に感じる違和感。そそくさと腕と布団を振り払い見てみると、記憶が途切れる前に見たときの光景がそこには広がっていた。
羞恥の前に、私は思わず感心した。
寝相、良すぎないかって。
ジェシーのものの硬さは落ちているにせよ、この光景って実際問題あり得るんだろうか。こんなこともあるものか、と体を捩り脱出しようとすると、私のお腹を引き寄せる逞しい腕。
ジェ「⋯⋯おはよう」
『おはよう。お風呂、行ってくるね』
ジェ「⋯⋯んー」
返事と裏腹に、ジェシーの腕は私を引き寄せる力が増す。
『じぇす?じぇもお風呂行く?』
ジェ「⋯⋯んー」
『寝てていいから、離して?』
ジェシーの手に自分の掌を重ね、ぽんぽんと優しく叩く。逃げようとしてるわけじゃないんだから、離してくれたっていいのに。前と違って、今ならちゃんと戻ってくるしさ。
『⋯⋯じぇしー、わっ』
ジェシーの腕によって、半分起こしていた上半身を押し倒された。視界に広がるのは目を瞑ったままニンマリと笑うジェシーの顔。相変わらず堀が深いこと。なんて思いながら顔の造形を眺める。気が済むまで付き合うしかないのかなあ、なんて考え始めたところで、ジェシーの腰がゆるゆると動き始めた。それは私にも関係している動きであることを、この男はわかっているのだろうか。
『⋯⋯じぇし、一回抜こうか?』
『じぇす、』
それは徐々に膨らみ、硬さを保っていく。
『ねぇ、ほんとは起きてるんでしょ』
ジェ「⋯⋯ふふ」
『ほら、なら、や、めて?ね?』
ジェ「なまえから誘ってきたのに?」
眩しそうに目を開くジェシー。口元だけは満足気に微笑んでいるけれど。まさか、
『私がいれたって、思ってるの?』
ジェ「? 違うの?」
『違うよ、起きたらこのままだったの』
ジェ「あー、そうだっけ?」
『2人とも疲れて、寝落ちしたんだよ、ん、』
ジェ「あ、好きなとこあたった?」
『ちがう、ねえ、朝から元気にならないで』
ジェ「俺はいつだって元気だよ」
『⋯⋯昨夜は元気じゃなかったくせに』
ジェ「じゃあ今朝挽回させてもーらおっ」
『っ、』
ジェ「やっぱここでしょ?」
『ちが、も、やめてよ、じぇす』
ジェ「ここまで来てやめるやついるの」
『朝勃ちは放っておいても、治る、っ、って聞いたよ』
ジェ「ふーん。誰がそんなこと言ったの?」
『男の人は大半そうだって』
ジェ「そっか。俺がそうとは一言もいってないよ、ねっ」
『ひゃ、も、やだ、朝から』
ジェ「起きた時に感じたでしょ、必然ってやつ」
『そういう時に使うために教えたんじゃないのに』
ジェ「ちゃんと勉強してる証拠なんだから褒めてよ」
『う、あ、』
ジェ「ここまできたら、もうやっていい?」
『今確認するの、ずるいよ』
ジェ「もう勃っちゃった」
『そんなの、わかる』
ジェ「一晩住まわせてもらってたみたいだからね」
『うちは宿じゃねえ』
ジェ「そうだね、だからかわりにご奉仕する」
『そういうセリフばかり覚えやがって』
ジェ「教えたのはなまえだよ」
『卑猥な言葉教えたつもりないっての』

【真夏の朝と線香花火】
 北斗と見る大地広がる自然の朝焼け。

北斗:今家の外にいる。少し出て来れる?
北斗からそうラインを貰ったのは、就寝前の24:45。
歯を磨いて、あとはベッドに入るだけのところ、リビングで携帯を弄っていたら届いた一件のメッセージ。
私がうんって言わないか、考えなかったのかな。
そう思いながら財布と部屋の鍵を持って家の外に出た。
助手席側の窓をコンコン、と2回ノックすると窓が降りた。
『どしたの』
北斗「乗って」
言われるがまま車内に乗り込むと、ドリンクホルダーにブラックコーヒーが二つ。車内は24度の空調が設定されていて、コーヒーは汗をかいていた。北斗は後部座席からブランケットを取り出すと、私にはい、と手渡す。
『寒くないけど?』
とりあえず受け取って、綺麗に畳んであるブランケットを膝上においた。
北斗「寝てていいから」
北斗はそれだけ言うと車を発進させた。
寝てていいから、なんて言われて、そんなすぐ眠くなるはずがなく。

北斗「ついたよ」
肩をぽんぽんと優しく叩かれ意識がはっきりする。まんまと眠ってしまっていたようだ。起き上がると肩までかかるブランケットがはらりと足元にくるまった。悔しきかな、最初からお見通しってわけね。

北斗「ついてきて」
言われた通り、おとなしく北斗の後を歩く。
何を話すでもなく、ただ静かに、北斗の影をなぞる。
ここが一体どこで、何がしたいのか目的はわからないままだけど。

北斗「ここ」
歩みを止めた北斗の横へ並ぶ。ここはとても高い高台。見下ろせば緑の木々と遠くに小さな街が見える。早朝によく見かける、水色とピンクの二層に分けたかのような空の色。程よい雲たちが幻想的な色合いを促していた。
ここは。
夏の朝の匂い。少し冷たく感じるこの空気が、私は嫌いじゃない。

『わぁ』

北斗の視線につられて同じ方向を見ると、それは軽やかに頭身を見せ始めた。私たちを照らす光は暖かいのに、力強いぼやけた輪郭の持ち主はあたり一面をオレンジ色に染める。それは徐々に徐々に、この世界を侵略していく。

綺麗だ。

きゅ、と手を握られる感触に、思わず北斗を見た。北斗の横顔はどこか侘しくて、切なくて、だから私はまた朝日へ視線を戻す。

この光にのまれたら、私たち、このまま消えてしまいそうだね。

思わずそう言いたくなったのを、ぐっと飲み込む。
繋がれた手から感じる北斗の想い。
私はそんなことをいちいち口にする必要もないみたいで。

そう思っていいんだよね。

私もきゅっと北斗の手を握り返す。


それは泡沫のような甘い現実。



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