今日は10月31日、ハロウィン。
私は劇団の作曲家として、何かしらの催し物があるとありがたいことにお呼ばれされる。
今日も例に漏れず招待を受け、季節の行事を楽しんでいた。
美味しく、かつ季節感もある臣くんの料理に舌鼓をうちつつ、劇団員たちとの交流を楽しむ。
そんな中で臣くんと綴くんが何かを持ってキッチンからやってきた。

「バームブラックケーキタイムだ」
「一人一つケーキを選んでくれ」
「ケーキは臣さん作っす」

甘い匂いに釣られてそちらを見るとなんとも美味しそうなケーキが目に入る。

「下の紙に色々書いてみたのでそこも合わせて楽しんでくださいっ」

綴くんの説明が終わるや否や学生組からワイワイとケーキを選び始める。
その波が引いた頃に、私も手近なところにあったケーキを一つもらい、紙を見た。

「…?"卯木賞当たり"?」
「お、当たりを引いたのは柚琉か」
「千景さん、これは…?」
「綴から数枚紙をもらってね、俺も当たりカードと外れカードを書いたんだよ。
当たりは俺が食事を奢る」
「先輩、太っ腹ですね」
「まあね」
「千景さんと…あの、私、激辛苦手なんですが」
「そこは、調整が効くところに連れていってあげるよ」
「それなら喜んで」
「先輩ってやっぱり俺以外には当たりそんな強くないですよね」
「人聞き悪いなあ」

当たりを引いたことで少しテンション高めにリーマン組と盛り上がる。
同年代の彼らと話すのは気兼ねなく楽しめる。
話に熱中しすぎてそんな様子を静観している人がいることに全く気づかなかった。

お酒で火照った体を冷やすべく、談話室を抜け出してバルコニーに来た。
時たま吹いてくる夜風が気持ちいい。
「…柚琉」
「わっ、ガイさん」
「隣、いいだろうか?」
「もちろんです!」
二人でバルコニーの柵に背を預ける。
左側に感じるもう一つの体温に心も暖かくなる。

「あ、そうだ」
「どうかしたのか?」
「ガイさん、トリックオアトリート」
「ああ…これでいいだろうか?」
私の呼びかけにガイさんはポケットから透明な袋にラッピングされたロリポップケーキを出した。
チョコレートでコーティングされ、モンスター風の目と口がついていて可愛らしい。
「瑠璃川と泉田が美味い店を教えてくれた」
「わあ、可愛いですね!」
「喜んでもらえたなら良かった…柚琉」
「はい?」
「trick or treat」
「え?」
予想外の返しにガイさんの発音キレイとかどうでもいいことを考えてしまう。
「…お菓子をくれなきゃイタズラするぞ?」
「いや、わざわざ訳してくれなくても意味わかる…というか今お菓子これしかないんですが…」
「じゃあイタズラだな」
そう告げるやいなや、ガイさんが私の手首を掴む。
「えっ、ちょっ、ここ寮!」
体を離そうとするものの、さすが護衛もこなす王族従者。全くビクともせず、逆に距離を縮められる。
背中と後頭部に手を回されて、抱きしめられガイさんの胸に顔を埋める形となる。
「…卯木と食事に行かないのなら、今はやめてもいい」
「なんで千景さん…?」
「バームブラックケーキ、卯木の当たりを引いただろう」
「ご飯奢ってくれるやつですか…?」
「その権利を放棄するなら、今はやめよう」
どうする?とガイさんは抱きしめる力をそのままに首筋に顔を埋める。
濡れた生暖かい感触に体が熱くなる。
これはまずい。
「わか、りました!行かない!行かないのでストップ…!」
「そうか」
すると今度は私の横に立って手を繋いだ。
「…ヤキモチですか?」
「俺は独占欲が強いからな」
サラリと言いのけたガイさんに私は「降参…」と呟いて頭を彼の肩に乗せた。

「千景さん」
「なんだい?」
「バームブラックケーキの特典、咲也君に譲ってもいいですか?」
「ええっ!?」
「それは構わないけど…いいの?」
「いや、まあ、色々ありまして…」
「ああ、なるほどね。
それなら、今度成人組で飲みに行こうか。
二人じゃなきゃいいんですよね、ガイさん?」
「問題ない。
それと柚琉、今日は送って行った後そのまま泊まらせてもらってもいいだろうか?」
「へ?いや、一人で帰れますよ?」
「夜は危険だ、それに…さっき止めると言った時に"今は"と言っただろう?」
「〜っ」
「柚琉も苦労してるな」
「仲が良くて羨ましいです!」
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