プロローグ
01
「ごめんね。どうせなら、あなたも私と一緒に死んで」
あなた、私みたいなものでしょう。
呟いて、唇の端を上げる。
たった五か月だとしても、バックアップで取り込んだ私の個人情報は、ぜんぶぜんぶコレに蓄積されていた。だから、コレを残していくワケにはいかなかった。もう最後の役割は――たった二人の大切な友人に、最期を告げるメッセージを送るという大役――果たしてくれた。だったら、きっと一緒に死んだっていい。ハンマーで粉々にされるより、きれいな海に沈んでいくほうが、きっといい。
そんな傲慢を覚えながら、私は崖のはしっこに立つ。
小さいころから夢だった。
足がすらりと長くなって、髪がさらりと伸びる年ごろになったら、――花の女子高生なんて、年齢に、なったら。
崖から海に飛び込んで死にたいと、そう思っていた。
お気に入りのサンダルを脱いで、裸足で岩肌に立つ。ごつごつとした表面が足の裏に食い込んで、「痛いなぁ」なんて気ままに思う。風に取られた髪は思いのほかぐちゃぐちゃで、それから夏の日差しを受けた肌は、汗でベタついていたけれど、その点は、及第点だろう。
それ以外に思うところなんてない。
ただ、あとは、ここから落ちるだけなのだ。
きっと、私のことを全く知らない人が見たら、私を思いつめたかわいそうな人、という目で見るに違いない。
ううん。けれど、全然、全くそんなことなんてないんだよ。学校でイジメなんてないし、両親との仲もそこそこだし、お兄ちゃんだって、最近就職して初めてのお給料で焼き肉を奢ってくれた。私の人生は幸せだった。そりゃあ、細かいところを見ればいっぱいの後悔も失敗もあるけれど、絶望なんて、ほど遠い人生だった。
だから、思いつめているなんて勘違いをされたくなくて、「これは私の夢なのだ」と、私は大切な人にメッセージを送った。きっと彼らならわかってくれるだろうと思った。両親や兄は――強がりだ、なんて思っちゃうかもしれないけれど。どこまでも近くて、どこまでも離れたあの二人なら、きっと。
そして私は「幸せだったなぁ」なんてこと心の中で呟きながら、ふらりと一歩を踏み出して、落ちた。
体が重力にひっぱられて、視界がくるんと回って。
真夏の太陽の下で、真っ青な海に落ちていく。
空は果てしない晴天だった。突き抜けて青い空に、見とれるほどきれいな入道雲がかかって、幼いころに見た映画のことを思い出した。
意識がぶつんと途切れる直前に、けたたましい通知音を聞いていた。
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