プロローグ

01

 俺の小説を丸パクリした漫画が、バカみたいに売れた。

 五時間も悩んで決めたタイトルは、もっと「わかりやすいもの」に変わっていて、俺が丁寧に表現した風景や動作はすべて「絵」というカテゴリに押し込められていた。ツイッターの広告で一話を試し読みしたときに、せりあがってきたのは何とも言えない虚無感だった。

 名誉や金の話は心底どうでもいい。ただ、流布したあの漫画がいつか「俺の作品の模倣だ」と知れ渡る瞬間をひたすらに恐れた。あれが俺の作品から枝分かれしたものであると認めたくはなかった。泥を塗られた気分だった。できることなら一生お前の作品として売れてくれと思っていたし、話が進むにつれて台詞選びがそのまんまであることに焦燥を覚えた。別に、模倣漫画の絵が下手だったとか、展開がオリジナルになっていてクソつまらなかっただとか、そんなことは一切ない。寧ろ、丸まんま『俺のもの』だったからこそ、俺は毎日食事の度に嘔吐いていた。

 当然、このインターネットが普及した社会で、サイトに投稿した小説を丸パクリしてバレない筈がない。アニメ化も検討され、映画化の打診もあった漫画は一夜にして大炎上し、特にネットではファンの悲しみや怒りが溢れ、某動画投稿サイトのおすすめ欄は俺の小説と漫画の相違点や炎上の経緯をまとめた動画のサムネイルが並んだ。俺は炎上騒ぎがあってから、二日目でメモ帳以外のアプリを開かなくなった。

 必然的に、やることが急激に減ってしまったので、俺は時たまその虚無感と向き合うことになった。食事を終えた後の一服だとか、風呂を出て服を着る前だとか、そういう『何をするでもない時間』に、どんずまりの思考が顔を出す。怒りでも悲しみでもなく、丸パクリされた小説が大流行したという事実に衝突したとき、それが虚無感へと辿り着いたのはなぜか。
 炎上騒ぎがあってから二ヶ月、いい加減世間がその話題を忘れようとしていた時。その理屈を、俺は丁寧にほどいてしまうことにした。なぜそんなタイミングだったのかは、この際どうでもいい――。

U_ieの境界線

×/×

index OR list