貴方とワルツを踊りたい



 貴方とワルツを踊りたい。
 私は先輩と出会ってから、ずっとその事ばかり考えてきました。突然ですが聞いてください、私と先輩のワルツの行方を。

 先輩は優しくて頭もよくて、何よりもルックスが申し分ない金髪碧眼の王子様でした。実際は日本人とロシア人のハーフで王子様でも何でもない一般家庭の一人息子です。そんなことはいいんです。
 お恥ずかしながら私は、お伽噺のお姫様なんかに憧れちゃうような夢見る乙女でした。自分で乙女とか言ってますけど我ながら羞恥心で死にそうです。そんなことはいいんです。
 もう大体お察しかとは思いますが、私には夢がありました。そう、本物の王子様と恋をすることです。
 そんなの無理だって私のお花畑の頭でもわかっていました。日本で王子様と出会うためには、まずは日本を王政にしなければなりませんから。外国で恋なんてそれこそ無謀ですよ。私は日本から出る気はこれっぽっちもありません。
 そんなとき、高校の入学式で先輩と出会い、私の考えは変わったのです。本物の王子様でなくともいい、王子様っぽい人であればいいんだって。恋なんかしなくとも、たった一夜の夢だけでも見れたらそれでいいんだって気づけたんです。
 なぜなら次元が違いすぎたから。あのオーラの前で平然としていられるほど私のメンタルは強くありませんでした。乙女ゲーム展開なんか起きたとしたら、私はきっとあのオーラに焼き付くされて灰となるでしょう。
 それでも、たった一度でいいから夢を叶えてみたい。短い人生のなかで、先輩のような王子様っぽい人に出会う確率は高くありませんもの。
 しかも先輩は三年生。今年しかないんです。大学まで追いかけようにも私の脳みそでは到底追い付けないレベルの大学に行くでしょう。今年が最後のチャンスなんです。

 前置きが長くなってしまいました。本題はここからなんです。もう少しお付きあいください。

 私は先輩とワルツを踊ってもらえるくらいに仲良くなるために、まず先輩の情報を集めました。真正面から行ってもオーラの前に為す術もなく倒れ伏してしまいそうだったからです。
 そこで私は嘆かわしい事実を知ってしまったのです。
 先輩は、コサックダンスしか踊れなかったということを……!
 なんということでしょうか。これでは私の“王子様(っぽい人)とワルツを踊る”という夢が叶えられません。私は涙にまくらを濡らしました。今年しかないというのに。
 私は悩みました。悩んで悩んで、そして思い立ったんです。
 私が先輩にワルツを教えてあげればいいのでないかと。
 思い立ったが吉日、私は必死で先輩とコンタクトを取り続けてようやっと仲の良い先輩と後輩の立場にまでこぎつけました。オーラは夢のために死に物狂いで克服しました。すみません今でも目玉溶けそうです。そんなことはいいんです。
 それは文化祭の準備が始まる頃だったでしょうか。よくクラスごとのパフォーマンスが行われるではないですか。私の高校だけでしょうか。とにかく、その内容はほとんどダンスでした。ダンス。踊り。つまりワルツ。もう私はワルツのことしか
考えられなくなっていました。ここで私は先輩に切り出したんです。

「先輩、ワルツ踊れますか?」

 踊れないことをわかっていて敢えて聞きました。当然返事は「コサックダンスしか踊れないんだ」でした。ここだ、私は確信をもって言いました。

「先輩、今どきワルツが踊れないなんて恥ずかしいですよ! 練習しましょう!」

 もちろんそんなことはありません。むしろ日本人が踊れなくても問題ありません。先輩はハーフですが国籍は日本ですし全くもってワルツが踊れる必要性はありません。
 けれど先輩は良くも悪くも素直な人で、慌てた様子で練習することを決めてしまったのです。
 今思えば申し訳ない気持ちもあります。私の夢のためだけにこんなことをさせてしまいました。今度菓子折を持って謝りに行こうと思います。そんなことはいいんです。
 そんなこんなで、ワルツの練習は行われました。最初の頃の先輩は、どうしてもコサックダンスのクセが出てしまうのか随所で屈伸運動をしてしまっていました。これには私も釣られてしゃがんでしまいました。
 他にも、男性方が片手を曲げて女性方がその腕に手を添えるといった姿勢のはずが先輩は両手を曲げてしまっていたり、ターンしている途中で先輩が勢いよく上げた片足が私の脇腹にクリーンヒットしたりなどのコサックダンスの弊害が現れました。まるで回し蹴りを受けたかのようでした。痛みを伴う過酷な練習でした。
 私はめげずにそれに耐え抜き、約二週間の猛特訓の末、先輩はワルツを踊れるようになったのです。

 ここまで聞いてくださり、ありがとうございました。その後、私は念願の先輩とのワルツを踊ることができました。それはもう夢のようでした。今でもあれは夢だったのではないかと時々思ってしまうので、練習中に記録していた特訓ノートを見返して現実であったことを噛み締めています。
 先輩もワルツが踊れるようになったことが嬉しかったようで、今でも色んなところで披露して楽しんでいるようです。たまに足がカックンカックン動いたり片足が上がりかけることもあるそうですが、先輩が満足しているならそれでいいと思います。

 だれかにお話しできてすっきりしました。私は今日でこの高校を卒業します。貴方にも素敵な出会いがありますように。それではお元気で。