☆月の土



 月が落ちてきた。
 そう形容してしまうほど、目の前で横たわる少年は、月明かりに照らされて淡く輝いているように見えた。
 錦糸のようなプラチナブロンドの髪がそよ風に揺れる。柔らかそうな髪の毛の隙間から覗く閉じられた瞼の縁には、長く豊かな睫毛が覆っていた。
 夜目でも整った容貌がはっきりとわかり、つい見惚れてしまう。
 しかし、なぜ私の家の庭で倒れているのだろうか。
 こんな夜に、明らかに外国人の少年が、なぜ。
 迷子という年では無さそうだし、家出にしても夜遊びにしても周囲には持ち物が何一つ見当たらない。
 私は一抹の不安を感じながら、恐る恐る少年に声をかけた。


「…あの、大丈夫ですか?」


 返事はない。耳が痛いほどの夜の静けさだけが響く。
 今度は少年のそばにしゃがみ込み、耳元に近づいてもう一度声をかける。


「あの、大丈夫ですか?」


 しかし、やはり反応はなかった。
 嫌な予感がする。頭に警報が鳴っているような気がしつつも、このまま放っておく訳にもいかない。ここは私の庭だ。
 仕方なく少年の肩を揺すろうと手を触れた。


「───っ!」


 声にならない悲鳴を上げて、私は思わず手を離した。
 さっと血の気が引く感覚がして体が震える。

 少年の体は、人の温もりを一切感じさせないほどに、冷たかった。

 理解を拒否するように、私は震える手を少年の口元に翳した。
 しかし、手のひらには何も当たることがなく、私はその場で力なく座り込むしかなかった。


「…あ…け、警察…病院……」


 慌てて携帯を探そうとするが、指先が震えてうまく鞄を開けることができない。落ち着け、落ち着け、落ち着け。
 漸く携帯を手に取った時だった。


「……ア、ァ……」
「…………え?」


 何かの呻き声のようなものが聞こえて、顔を上げる。
 ぱちり、と。
 少年の透き通るような金色の瞳と、視線が交差した。


「……ヤット、ヒト、アエタ」
「………………き」
「キ?」
「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」
「!!?」


 仕事帰りの夜中1時。静かな夜に、私の絶叫が響き渡った。


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