ショーウィンドウ越しに店の中を観察する。ざっと見た感じ、昨日の人は見当たらない。今日は、お休みなんだろうか。それともまだ出勤時刻ではないのか。休憩の時にまた来ようと、踵を返した時だった。
「名字さん!」
「あ!えっと、」
「大倉です。俺、名前言うのずっと忘れてましたよね。」
「…名字です。」
「いや、知ってますって。」
細くなる目に、きゅっと弧を描く唇。お手本のような綺麗な笑顔。英国製のものなのか、グレンチェックのスーツがよく似合う。
「大倉さん。昨日はありがとうございました。これ、ちょっとだけなんですけど、」
「え!そんなんいいですって!」
「いや、これは受け取ってもらわないと困ります。」
来る前に高島屋で買ったヴィタメールのチョコレート。そこに忍ばせているのは、封筒に入れた昨日のお釣り。貰ってもらわなければ、この子たちは行き場をなくすのだ。私、甘いもの好きとちゃうし。
「…これ、いただいてもごはん行ってくれます?」
「え?ごはん?」
「もう!昨日言うたやないですか。余ったお金でごはん行きましょうって。」
そう言えばそんなことを言っていた気もする。だけど、大倉さんと私が一緒に食事に行ったって、お互い気を遣うだけで何のメリットもないのでは。
「…名字さんてほんま鈍感でしょ。」
「そうですか?」
「そうですよ。次の休み、いつですか?」
「木曜、ですけど」
「じゃあ、水曜の夜、仕事終わりに行きましょう。連絡先、ここに入れてください。」
差し出された携帯に、自分の番号を入力する。何を素直に私は言われた通りにしているのか。そうは思いながらも、なんとなく嫌ではなくて。
「ふふ。また連絡しますね。」
「あ、はい。お願いします。」
ポケットに携帯を仕舞って、ヴィタメールの袋を持ち店の中へ入って行った大倉さん。
マイペースな人や。
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