学校が終わり、なんとか英語の課題も提出したところで、陽葵は梨花に乙樹と帰るとメールを送る。迎えに来るとは言っても、誰かがいる時は遠くから陽葵を見守るくらいだから、実際のところメールをする必要はないのだが。今日は来られたら困るので念のために。梨花からはすぐにメールが返ってくる。その内容は了解しました、とえらく素っ気ない。
「……どれがいいんだ」
陽葵は沢山並んだアクセサリーの前で頭を悩ませていた。どれが似合うだとかどれが何なんだとかわけがわからないと陽葵は思う。乙樹に聞いても「俺が選んだら意味がないだろう」と苦笑いされて、陽葵を助けてはくれなかった。
「……うぅーん」
「悩んでるなぁ、陽葵」
「乙樹。やっぱり自分で選ぶなんて無理だ」
「そうやって悩んで悩んで選んでくれるものだから嬉しいんじゃないか。陽葵がいいと思ったものを選べばいい」
「じゃあ、あのクマのついたヘアピンとか選んでもいいのか? ……ダメだろ」
「……案外喜ばれそうだけどな」
「? なんか言ったか?」
「いいや。何も?」
どうしようか、と陽葵は頭を悩ませる。目の前に広がるアクセサリーは正直どれだって変わらない。だからといってどれでもいいわけじゃない。陽葵はすっと視線を走らせる。
「あ……」
ひとつ。陽葵の目につくものがあった。それは、柔らかい紫色のバレッタ。そこに描かれているのはおしゃれなベルの形をした花だった。その花が一体何なのかは分からないが、陽葵は本能的にこれだと思い、それに手を出す。
「見つけたか?」
「ああ。これにする」
陽葵は確実に頷く。乙樹はそれを見て「そうか」と笑った。会計とラッピングを済ませた陽葵は店を出る。何だかどっと疲れた気がして、ため息をつくと「お疲れさま」と乙樹が声をかけてきた。
「付き合ってもらってありがとな、乙樹」
「どういたしまして……って、まぁ、俺は何もしてないけどな。あー、礼なら明日の歴史の課題で頼む」
「お前、本当に苦手だよな。歴史」
「何だろうな。拒絶反応が凄い」
「え、そこまで行くのか」
「ああ、どこまでも行くと思う」
「そうなのか。まぁ、分かった。歴史の課題な」
そんなくだらない軽口を叩きながら、帰路を進む。いつもならば、陽葵の方が先に家に着くが、回り道をしたので乙樹の方が先に家に着く。家の近くまできた乙樹は「それじゃ、また明日」と手を振る。陽葵も同じく手を振り返すと、乙樹は踵を返して歩いて行き、やがてその姿は見えなくなった。
「陽葵様」
それと同時に背後から声がする。陽葵はその声にプレゼントを強く握り締めた。ドキドキと弾む心臓がとても煩くて、やけに頬が熱い気がする。なんだか、とても恥ずかしい。
「えーっと……梨花?」
「はい、なんでしょう。陽葵様」
「そろそろ誕生日なんだよな?」
「…………はい?」
「父さんが話してたんだ。だから、これ。早いけど。隠すとか出来ないと思うし」
陽葵はそんなことを早口で、一息で言いながら先ほど買ったプレゼントを梨花へと渡す。梨花の顔がなんだか見れなくて俯いたままだが、陽葵は「いつもありがとう」と小さく、どこか消え入るような声で口にして、すぐにふいっとそっぽを向いた。
「陽葵様……あの」
「受け取らないとかなしだからな」
「……はい。ありがとうございます。大切にします。陽葵様」
その声には、とても隠しきれない感情が乗っていて、陽葵は思わず梨花へ振り向いた。そこにはいつもと変わらぬあの仏頂面があると思っていた陽葵だったが、梨花は大切そうに陽葵の渡したプレゼントを見ながら嬉しそうに笑っていて。なんだか見てはいけないものを見た気分になって、陽葵は梨花から視線を外した。
「……帰りましょう。陽葵様」
「あ、ああ」
暫しの後にかけられた言葉に陽葵は少し肩をはねさせてしまったが、どうにか頷いた。一歩一歩家までの道を歩く。夕暮れに照らされた街はゆっくりと、しかし確実に2人を包み込んでいた。
「いってらっしゃいませ、陽葵様」
今日もまたしっかりと45度に傾いた彼女の髪にはバレッタが付けられている。陽葵はそれを見て、少しだけ口角を上げた。
「いってくる」
「はい。学校が終わり次第迎えに参ります__お気をつけて」