※315P=石川P


オフだったので甘いものが食べたくなって、最近流行りの喫茶店でパンケーキを食べに来ていた。

注文を終え待っているとき、聞こえてきた店員さんのいらっしゃいませという挨拶にふと視線を向けると見たことあるひとが...。

315プロのアイドル、握野さんだった。
こちらの視線に気が付いて手を振ってくれたので振りかえす。
店員さんに一言二言なにか話してこちらへ握野さんは来た。

「相席いいですか?」

突然の申し出に驚いて向かいの席に置いていた自分の荷物をさっと退ける。

「どうぞ」

「名前さんはオフですか?私服って珍しいなと思って…。」

「今日はオフです。そっか…いつもスーツ姿で会うもんね。私服は見せたことなかったね。」

「スーツも素敵ですけど私服もいいですね。」

「ありがとう。ちょっと照れちゃうな。握野さんの私服もカッコいいな〜」

ありがとうございますと返す握野さんの笑顔にやっぱりアイドルだな〜煌めいてると思いながら、メニュー表を渡す。
握野さんはここに来るのに慣れているのかメニューをさらっと見て店員にすぐ注文をした。

「握野さんってよくここに来るんですか?」

「まぁそうだな。」

「そういえばパンケーキ好きなんでしたね。」

「よく知ってますね。」

「315プロの皆さんのファンですもの。」

特に握野さんはデビューの頃から好きだったからパンケーキ好きなことなのは知っていた。私が今日パンケーキを食べに来たのも握野さんの好きなものを食べたかったという理由だ。本人には内緒だけど。

「名前さんに聞きたいことがあるんだ。」

「なんでしょう?」

「実は新曲でその…ユニットでラブソングを歌うことになってそのアドバイスをもらいたいなと…」

FRAMEがラブソングを歌う…。

「プロデューサーに聞いてみたんだがやっぱり女性に聞いた方がいいって言われて是非名前さんに聞こうと思ってたんだ。」

「あ、ありがとう。」

握野さんが私を頼りしてくれたのは嬉しい。
だけど...。

「悲しいことに恋愛事とは疎遠で…期待にこたえられるか分からないけど。」


「じゃあ名前さんが俺とデートするならどんなデートがいいですか?」


正直言うと握野さんとデートできるというだけで十分なのだが、それでは答えにならないので考える。

「そうですね。サプライズとかプレゼントとかそんな大それたことはしなくていいから普通のデートがいいな〜なんて。」

「普通のデート?」

「少女マンガとかでみる遊園地とか水族館とか王道なところでもいいし、街中をショッピングでもいいかな。いつも通りしゃべって、いろんなところを回る。それが一番いい。」

「そんなのでいいのか?」

「好きな人といるだけで幸せっていうじゃない?そんなものだよ。」

デートなんてしたことない私に世の女子がどういうことを求めているか分からないが
私の考えを伝えてみた。

「まぁ私は握野さんとだったらどんなデートでもいいな〜って思いますね。」

そういうと握野さんは驚いた顔をしていた。
どうしたのだろうか。
ふと自分の言った言葉を考え赤面する。
私、もしかして今告白まがいなこと言った?
握野さんとだったらどんなデートでもいい=好きと言っているようなものだった。
慌てて訂正しようとあたふたしているところに、店員さんが注文したパンケーキを2人分持ってきた。

「名前さんはプレーンですか?」

「そうそう。握野さんは?」

「ナッツとクリームたっぷり乗せだ。」

「へ〜おいしそうですね。」

さっきのことは何もなかったかのように
店員さんに助けられたな。
ありがとうと心のなかで店員さんへお礼を言う。

握野さんはパンケーキの乗ったフォークをこちらに向けてきた。

「はい」

「はい?」

「あーん」

え、あーん?
とりあえず口をあけるとパンケーキが口の中に入った。
クリームの甘さとナッツの塩気が良い感じにマッチしている。
これもアリですね。

「おいしいです。」

「だろ。」

ふと今の流れを思いだして
今のカップルがするようなことが目の前で起きた。しかも握野さんは何事も無かったかのようにパンケーキを食べていた。
きっと握野さんは私を女だという認識が薄いのだろうと言い聞かせ、平静を装おうと自分のパンケーキをフォークにさして口に運ぼうとした。
...がその腕を握野さんに掴まれ手元のパンケーキをぱくりと食べた。
次から次へと甘い展開が起きて私の頭はショートしかけていた。

「美味しいな。」

「それはよかったです。」

なんとか意識を取り戻して返事をしたものの、握野さんの笑顔がいつも以上に眩しかった。あぁ好きだなー。

「名前さん、アドバイスのお礼させて?」

「いいよ、いいよ。お礼っていうほどのことしてないよ。」

アドバイスになってなかったし、憧れの握野さんと恋人のようにあーんができただけでもう十分だ。それにあんなことがさらっと出来るんだから私のアドバイスなんて全く要らなかった。

そう考えているところに爆弾がおとされた。


「今から俺とデートしよう?」


握野さんとパンケーキをシェアして今度はデートに誘われた。
これもきっと意味を含んでいない、ただの誘い文句みたいなものなんだ。
それにしても私、前世でどんな徳を積んできたんだ。本当ラッキーだな。
そんな場違いなことを考えていた。

「いいですよ。」


このデートがどういう意味を含んでいるか知るのはもっと先の話。