喪失


クリスタルは死んだ人の記憶を忘れさせてくれる。

今の時代、戦争が続き沢山の人が亡くなった。それは悲しいことで辛いことである。だが、そんなことを気にしていてはそれ以上の人間を失う。(そんなことで片付けてしまうのはよくないけど)
だからクリスタルは、亡くなった人との思い出を軽くする。それは未来へと踏み出せるように...という私達への配慮なのだろう。

しかし本当にそんなことで未来へと踏み出せるのだろうか。




私は先日から喪失感に見舞われていた。一体何を失ったのかはわからない。思い出せないところをみると、"誰か"が死んだのかもしれない。
しかしそれを確かめる術はなく。
考えても思い出せず...私は息抜きをすることにした。

作戦続きできっと疲れているんだ・・・そう思ってカヅサの研究室へ向かった。



「...で、息抜きに僕の研究室にきたと?」

うん、と答えると丸めた紙束で頭を叩かれた。
確かに私が悪いけど...叩く事はないじゃないか

「ここは休憩室じゃないんだ」

「せっかく悩める乙女が相談しにきてるのにそれは無いでしょ。」

「原因がわからないが、確かに僕も最近喪失感を感じる。」

「カヅサは暇なだけじゃ・・・」

「それより君の発言は間違いだらけだね。乙女なんてここにはいないし、僕はヒマじゃない。」

「暇そうだけど・・・」

「大忙しだよ。君がいたら実験の邪魔なんだ。帰った帰った。」

しっしっ、と犬をはらうようにする。


「こんにちは」

カヅサと言い争っているところに0組のエース君が入ってきた。
こんにちは、と言おうとするとカヅサは私を押しのける。

「やぁ、君か。何だい?」

「こら、カヅサ!!私を押しのけたでしょ!!」

「もしかして実験かい?大歓迎さ」

「無視しないでよ!!」

私は無視し続けるカヅサに怒鳴った。
エース君も困った顔をしている。

「あの...頼まれたモノを届けに」

そう言った彼の手には一つの瓶


「あぁ、頼んでいたモノがやっときたのか。長いこと待ったよ。」

どうやら彼の研究していた記憶の実験材料らしい。
しかし目を使うとは中々に気色の悪いものである。
一体誰のだろうと言ったところで持ち主を知る人はいないだろう。きっと持ち主はこの世にいない。カヅサは気にすることなく、淡々と準備をする。
そこがカヅサらしいところである。

道具の準備が終わりスイッチを押すと、目から光が出た

「珍しく成功したな。君も見ていくかい。」

エースは頷き光へと目をむける。私もカヅサの横に立った。


流れ始めた映像に始めに映ったのは魔導院
次に教室の風景....

どうやら目の持ち主は候補生のようだ。

次から次へと変わる映像...光る空、青年の姿、戦争、まばゆい閃光...そして青年と並ぶカヅサ、と私
最後に映ったのは誰かが私にネックレスをかけているところと、青年と私が微笑んでいる写真だった。


「っ...」
衝撃だった。鈍器で撲られたようだった。

カヅサはエースに帰ってもらうように促した。エースも理解し素直に何も聞かずに部屋をでていった。


ふっと体の力が抜け倒れそうになるがカヅサが、すかさず私を支える。
そうか最近の喪失感はこれだったのか
彼が...あの青年が私の大切な人だったんだ。私の首に掛かっているネックレスをくれたのも彼なんだ。
大切な人を失ったのに涙さえこぼれない。悲しみが来ない。

「どうしよう、カヅサ。わたし...わたしっ!!」

混乱している私に対して、カヅサは静かに頷いた。きっと言わなくても理解しているのだろう。むしろカヅサも同じ気持ちなのかも知れない。




クリスタルは死んだ人達の記憶を消すことで私達の悲しみを奪って・・・

クリスタルは残酷だ...こんな運命を望んでいるのだろうか



私の意識は暗闇の中へと落ちた。





modoru