欠如




私は欠陥品だ。

魔術師の名家に生まれた私は、3歳の時に魔術の特訓をはじめた。だが、何年経っても魔術の基本が全く出来ず不思議に思った両親が調べたところ魔術回路が人より劣っているということが発覚した。
それを知った親戚達は、私を養子に出すことを勧めた。アーチボルト家に、出来そこないがいることが恥だと何度も言われた。だが両親は、そうはせず優秀な兄と同じように愛情をそそいでくれた。兄も軽蔑せず、妹として扱ってくれる。
私は嬉しかったが、辛かった。
私のせいで、両親が周囲から哀れみの目で見られていること・・・兄が同級生に蔑まれていることを知っていた。
だから私は、16歳の時に家を出た。そして必死に魔術師になるために努力をし、時計塔に通える程になった。時計塔ではアーチボルトの姓は名乗らず苗字と名乗った。結局、魔術使いまで何とかのぼりつめたが、魔術師にはなれなかった。


そして、聖杯戦争がおきた。
兄−ケイネスは、妻であるソラウ様と私を極東の地に連れていった。私はここでケイネスの役に立てるように頑張らないとと意気込んだ。

しかし、兄は大怪我を負った。
アインツベルンの城に乗り込んだ時セイバーのマスターにやられたのだ。しかも自分の目の前でだ。セイバーのマスターを前に私は怯えた。敵は魔術だけでなく現代兵器も使う、そして自分より何倍も強い。
自分はケイネスを庇うことしか出来なかった。

"アーチボルト家の恥って言うのは本当なのね、呆れた。"とソラウ様に言われた。何も言い返せなくて、私は瞳からこぼれそうな涙を見せないように二人のいる建物から出ていった。



二人に見えない場所に移動し、誰もいないことを確認し柱に寄り掛かった。
「うっ・・・っく」
私は声を殺して泣いた。
泣いたからといって何もかももとに戻るわけではないのに。泣いてはダメだと思えば思うほど涙は溢れ出す。

「名前殿」

誰もいないはずなのに、突然声が聞こえてとっさに顔を上げる。

「ランサー」

目の前にはケイネスのサーヴァント。
その涼やかな表情のなかに少し哀愁が漂っていた。
この表情に世の女性は皆ため息をもらすのだろうと関係のないことを考えていた。が、はっとして涙を拭ってランサーに顔を向けた。

「兄様の容態は?」

「今は落ち着いているようです。」

そうと短い返事を返した。
ランサーは私の顔みて目を細めた。

どうかしたと尋ねようとすると彼が手を、私の頬にすべらせた。
彼との距離はぐっと近づき、私は少し動揺した。
ランサーは目の下を指でなぞった。


「最近、ちゃんと寝ていますか?」

ドキッとした。彼の言う通り、最近眠れていない。だが私は動揺を隠し頷いた。隠せるはずもないのに。

「以前より痩せ、目の下にクマも・・・」

「だっ、大丈夫です。ランサー、心配かけさせてごめんなさい。でも私なんかより、兄様を心配してくだ」
「名前」

ランサーに名前を呼ばれ、私は口を閉じる。初めて"名前"と呼び捨てされた気がするな。

「貴女は自分を責めすぎるところがある。今回のこともそうだ。あれは俺が気づかなかったことが原因だ。」

「違うよランサー、原因は私。 私が何も出来なかったことでケイネスは・・・。ケイネスだって私を見捨てるわ。私が欠陥品だから」

そう私は無力・・・役立たずなんだ
泣いちゃダメ、ダメだよ。
俯いていたら不意に頭に重み。
見るとランサーが私の頭を撫でていた。

「欠陥品で何が悪い。」

「...え?」

「人間、一人ではできないことがたくさんある。誰しも欠陥品だ。だからこそ頼るべきなのではないか」

「!!」

「名前殿は、いつもひとりで抱え込んで頼ろうとしない。そこが心配だとケイネス殿もおっしゃっていた。」

「兄様が?」

「はい・・・動けない自分に代わって、妹の様子を見てきて欲しい、と俺に命を下さりました。」

ランサーは、このことはケイネス殿には黙ってて欲しいと苦笑した。そして、優しく微笑んで私の手をとる。

「貴女はケイネス殿を支えています。役立たずなんかではありません。現に、セイバーのマスターの前から逃げず、ケイネス殿を守ったではないですか。」

「でも・・・」

「それでも足りないと言うなら、貴女に足らないところは、俺が埋めます。ですから、頼ってください。もっと素直に。」

思わず目を丸くしてしまった。
ランサーの台詞はまるで

「なんだかプロポーズみたい」

「なっ!?」

しかもくさいプロポーズの台詞。だけど、女性をドキドキするさせるには十分だった。(私も含む)
ランサーも顔を赤くしてあたふたして私の手を離した。

「それは・・・その、今のは」

なるほど彼は天然タラシか。
一体、これで何人の女性を泣かせたのだろうか・・・。

「ふふっ・・・ふふふ」

「名前殿、笑うことはないのでは!!」

「っふ、ごめんなさい・・・くく」
納得いかない顔をして拗ねるランサーを尻目に私は笑った。


「ありがとう、ディルムッド。」



一瞬キョトンとしたランサーだったがすぐにいつものような眩しい笑顔になった。




欠如は絆の形



2012.03.25
(2014.10.12 修正)



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