吐いた息が白くなるほど寒い夜
日は落ちてしばらく経ち、月も無いと言うのに、遠くの街はにぎやかに輝いていた。
そんな風景をマンションのベランダから私は、手を擦りながら眺めていた。
しばらく経つとベランダの扉が開いて同居人かつ仕事仲間の雪見が起きてきた。
「ごめん、起こしちゃった?」
私が眉を下げて聞くと、いいやと短い返事が返ってきた。 少し眠たそうな顔をした雪見は持ってきていた毛布を一枚私にかけてくれた。
それから無言になり、二人並んで街を眺めていた。 その空気に気まずさはなかった。
「壬晴君、本当に森羅万象の術者なんだね。」
しばらくして私は、つぶやいた。
「そうだな。あの小さなガキのなかに森羅万象があるのかちょっと疑いたくなるが・・・ガキのほうが捕まえやすくて助かる。」
「はは、確かにそうだね。でも、そんなガキに負かされているのは誰だっけ?」
うるせぇと、笑う私の頭を小突いた。
「壬晴君に宵風君・・若いのに皆強いね。」
そういって笑って私の目は、遠くを見つめていた。それに気がついた雪見は真剣な顔になった。
「お前・・・何考えてる。」
「何って、私が考えていることはいつも一つだよ。」
私は笑顔を浮かべたが雪見の眉間のシワは一層深くなった。 それはきっと自分が森羅万象に懸ける思いを知っているからだろうと私は考えた。
私...名前は不老不死の身だ。 虹一やシジマと同じ過去の実験の犠牲者であり、唯一人間の被験体であった。彼らと少し状況は違うが同じ願いを持っていた。 ただ死を望んでいた。 だが、私は森羅万象を持つ少年が現れた今、自分はどうするべきか悩んでいた。 以前の自分なら、迷わず死を望んでいただろう。だが今は何故か、わだかまりを感じていた。
何か思い残りがあるんだろうか。
ふと隣の雪見を見る。
答えなんて本当はわかっている
私まだ雪見と一緒にいたいんだ。
ずっと分かっていたのに認めたくなかったんだろうな。それを認めてしまえば死ねなくなる。まだ生きたいと思ってしまう。
「私もまだ人間だったんだ」
「お前はどう見たって人間だろ。」
私の呟きに返ってきた声に吃驚する。
「笑ったり泣いたりする普通の人間だろ。ただ人より長く生きてるってだけ......ただそれだけだろ。」
「ははっ...雪見らしいや。」
だから私は好きになったんだ。
「ねぇ、雪見。」
「何だ?」
「来年の花火大会一緒に行こう」
「は?」
何でこんな時期に花火大会の話なんだといった顔をした雪見に、私は行ったことないんだ、と笑った。
「で、りんご飴食べたいな。私りんご飴食べたこと無いんだ。でね、わたあめもチョコバナナも買って、あとは焼き鳥!」
「お前、食い物ばっかじゃねーか。色気より食い気かよ」
「えー、良いじゃん!美味しそうなんだもの!」
雪見はお前らしいよと言って頭をポンと撫でた。
「そんなにいっぺんに食べなくても再来年にも食べられるだろ」
「...そういえばそうだね。再来年にも連れてってくれる?」
「当たり前だろ。約束だからな、名前」
そう言って雪見は小指をたてた。
私はその指に小指を絡めた。
「約束するよ」
その先に何があろうと今だけはその約束を守ると言うよ。
お題/神は恋を知らない
2013.09.30
modoru