心地良い風に、香る潮の匂い。
そして久しぶりに浮上した我らがポーラータング号の甲板には、一面の白、白、白。
その正体は潜水期間中で溜まりに溜まった、シーツやらツナギ達だ。
清潔感溢れる汚れ一つない洗濯物達を、ナマエは死んだ魚のような目で見つめていた。
遠くの方で戯れているシャチやベポ、ペンギン、その他諸々のクルーを見つめながら、ナマエは干されているシーツのシワを手のひらで伸ばす。
キャッキャと楽しそうなクルーの様子とは違い、ナマエは変わらず濁った瞳のまま自らの存在に気づかれないように無になっていた。
「なんだこれは……」
そう呟けど返ってくる返事などあるはずもなく、ただ洗濯物が潮風に靡く音が虚しく響くのみ。
けれどこれで良いのだ。自分はなるべく他から距離を取り、名前のない黒子のような存在でいたい。