ちゃり、と靴底が硝子のかけらをなぶる。信仰のよりどころであるはずの聖堂はもはやその姿を失っていた。あるべきはずの天井は硝子窓の残骸とともに、雪のような気やすさで床に積もっている。崩れた外壁は夜露を凌げるかも危うい有様だ。
硝子に紛れて散らばる灰はかつての書物だろう。焦げた紙片はまだ僅かに熱を孕んでいる。百年残せる羊皮紙とインクだって、燃えれば灰だ。遠い星で聞いた言葉が甦る。
「徹底的だな」少年のままの声が紡いだ。
「これが火種だったのか?」
『口実だったのかもしれない』
会話に挟まれるのは遊真の靴が灰と硝子をなぶる音だけだった。ざりざり、さりり、ぱきん。硝子は呆気なく砕けていく。
「――だれ?」
ちゃりん。硝子の悲鳴にも似た、頼りなく震える声が響いた。遊真はレプリカと顔を見合わせて、それから瓦礫の向こうへ声を放つ。
「通りすがりだ」
「……敵?」
「敵意はない。いまのところ」
ちゃりりと硝子が鳴る。
床に散った赤を追ってそれを見つけた。――少女だ。緩慢に動いた瞳が遊真を捉え、青白いくちびるはすこしだけ弛む。赤い瞳を眇めた。見込みはないが、まだかかる。
「きらきら……きれいな、髪ね。かみさまみたい」
「はじめて言われたな」
「……もし、あなたが……」
「おれはカミサマじゃないが、いいぞ」
「……――ありがとう」
そっと瞼を下ろす。できるだけやさしく。じゃりり。硝子がまた悲鳴をあげていた。