きんと冷えた冬の空気のなかで深呼吸すると、肺がきしきし痛む。夜へ流れていく白い呼吸を視界の端に収めながら、迅はしばらく生身に戻っていなかったことをすこし反省した。トリオンが形作る体は痛みも疲労も薄く、温度にも鈍い。そうしなければならない理由があったにしても、これだけ寒くなっていたことに気付かなかったのはあまりよくない。
考えてみれば、一年の半分はトリオン体で過ごしているのではないだろうか。烏丸に着なくなった洋服を譲ったときに『ああ、迅さんいつもトリオン体ですもんね』と冗談か小言かわからない声色で言われたことを思い出した。新しい服もずいぶんと買っていない気がする。せっかく休みをもらったのだから買いに行ってもいいかもしれない。けれど、その前に彼女だ。彼女に会わなければならない。――会いたい。
「……風邪ひいてなきゃいいけど」
ぽつり、と声を落とす。しばらく会えないかもと告げたとき、なまえはわかりましたとお行儀よく微笑んで『忙しくてもちゃんと食べて、寝てくださいね』と迅に言い含めた。助言は頭の片隅にあったが、それに従えていたらずっとトリオン体で過ごしていない。罪悪感が自省の理由だと気付いて、うすく笑みを浮かべた。彼女がいなければ、迅はこの帰り道もトリオンの体で歩き、寒さも痛みも感じていなかったに違いない。
久しぶりの自分のからだは、少し痩せたようにも、いつになく頼りないようにも思える。けれどこの無力なからだも、今はそんなに嫌いじゃなかった。シャワールームの鏡で隈の有無くらいは確認しておくべきだったな、と吐き出した呼吸もやはり白く烟る。
ぱちりとまばたきを落とせば、不意に未来が見えた。それに知らず笑みがこぼれ、冷たかった心臓がとくりと熱を抱く。
「……――はやく会いたくて」
これから彼女は『どうして髪をしっかり乾かさないんですか!』と怒る。それはもう確定してしまった。そして彼女が迅の髪をやさしく梳きながら、ドライヤーで乾かしてくれることも。迅はもういちどゆっくりとまばたきをして、彼女の機嫌をとるためのお土産をサイドエフェクトに訊ねた。