しずかなひと

 ヒトが一生のうちに刻む心拍数が定まっているように、ヒトが一生のうちに紡ぐことのできる言葉の数もまた定まっている。ぼくにそう教えてくれたのは、とてもとてもお喋りなひとだった。「はやくしにたいの」と、笑い声の合間に呟くのを、一度だけ聞いた。言葉も鼓動も失ったきみへ花を手向ける。きみが紡いだ言葉のほとんどは、なんの意味もないものだった。そういう言葉をきみは選んでいた。言葉を無意味に消費して、死を速めたいのだと言っていた。そんなもので命が削れてしまうのなら、どうしてぼくは生きているのだろう。きみに好きと告げるたびに鼓動を速めたこの心臓は、どうして今も動いているのだろう。あぁ、心拍よ、言葉よ、はやく尽きてくれ。きみがいなければ鼓動が速まる理由も言葉を紡ぐ意味もないけれど。