好きだった。
もしかしたら好きだったのかもしれなかった。黒板に数式を書き写すときの控えめな音だとか、少しだけ背伸びをする後ろ姿とか。こちらを見上げてくる瞳とか。ちいさく笑んだ声だとか。とりとめのないそれらの、どこかに、惹かれていたのかもしれない。それはほんとうに、実りようのないほどに淡く。その先も視えないほど。
好きだった。かもしれない。無様な心をていねいに磨り潰す。この気持ちがその未来をほんの少しでも損なわないように――そっと、ころした。