「わたし、もうすぐ太陽になるの」
少女の言葉に、あたしと彼はちいさく首を傾げた。
そっと目配せを交わす。少女は笑っていた。地平に落ちた太陽が弱々しい光で少女の輪郭を染める。この国は日照時間が極端に短く(真冬の三門の半分くらいだろうか)、そのせいか、ひとびとは太陽を崇めているようだった。
『太陽信仰は珍しくない』
彼はそう言ってほんのすこし神話を紐解き、あたしたちはそれを焚火を囲みながら聞いた。昨夜のことだ。ちらちらとした炎が彼の薄い色素の髪を染めあげ、けれどその瞳までは暴けなかった。都会の夜空のほうが彼の瞳よりも余程明るいだろう。
この国で最初に出会った少女は、警戒心のかけらもない無垢な瞳であたしたちを見つめている。
彼は、ひとにものを信じさせるのが得意だ。もうそのことを知っていたけれど、それにとやかく言うつもりはなかった。すべてはいまさらで、選んだのはあくまでもあたしだ。
「ひみつよ、旅人さん」
神妙につくった声が言う。
「……ああ、秘密にしよう」
彼が静かに頷くので、あたしも「約束する」と小指を差し出した。きょとんとした顔の少女に、あたしたちの国では約束するときこうするのだ、と彼が説明してくれた。
あかぎれた指が絡んだ。折れそうなほど華奢な指をやわくつないで囁く。
「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます」
ゆびきった。
「え!」
びっくりしたような少女に「ほんとうにはきらないよ」と教える。「まじないみたいなものだ」と彼が続けた。少女の安堵の吐息が夕にまぎれる。
「……太陽になるってどういうことなんだ?」
彼が訊ねると、少女はあたしたちをじっと見て、
「とっても、しあわせなことなのよ」
と、わらった。
それにどこか既視感を覚えたけれど、その正体はわからない。あたしのとなりで、彼は「そうか」と囁き、少女のあたまをそっと撫でていた。
天動の星の太陽がひとのいのちの灯火で燃えているのだと知ったのは、次の国に渡ったあとだった。
ああ――そうだ。あのわらいかたを、あたしは知っている。
鏡のまえで練習したときのかおに、そっくりだった。