かがやくものすべて

「かがやくもの、すべて」
 唄うような声が紡ぐ。はぜる炎に照らされた頬は赤く、幼気なまろみを帯びていた。金の瞳のなかでおだやかな火がゆらめいている。みっつほど歳下であるはずなのに、その横顔はときどき驚くほど大人びていた。
 泉のほとり、近界の少女が起こした炎はさほど明るくはない。侍るように集った羊たちとひとつの生き物であるように見えた。瞬くひかりに薄っすらとした影が浮かんでは消える。
 ぱきり、と小枝を折って焚き火に投げこむ。傍らで伏せた犬の耳がひくりと動いた。少女がそのひたいを撫でれば、警戒もほどける。
 近界の空は星が近い。名前も知らない国のあでやかなひかりが鏡面のような泉におちる。
 ――『星』とはなにか。
 少女に問いかけたのは迅だ。
 自分の知るそれとはなにもかもちがっていた。百億光年先のひかりではなく、神話に描かれた英雄でも、死んだひとでもない。星は国であり、国は天を巡る。
 肩にかかった毛布を引き寄せた。少女の羊たちから分け与えられた一反は、肌をちくりと刺す。化成繊維に比べると肌ざわりはわるかったが、じゅうぶんにあたたかい。トリオンのからだに寒さなどあってないようなものだけれど――だからこそ、ひどくあたたかいとおもった。
「炎も、閃光も、夜闇にひかる獣の瞳も、」
 かがやくものはすべて。
 少女はさえずるように繰り返し、炎の向こうの瞳が迅をとらえる。金がくたりと蕩けた。少女はまばゆそうに瞳を細める。
「生きるためにかがやくひかり。わたしたちはそれを星とかぞえる」
 おとうさんが言ってたんだけどね。
 付け足された言葉がはにかんだ。遠いだれかを想って天を仰ぎたくなるのは、死んだひとは星になると知っているからで、だからか、少女はただ迅を見つめていた。
 傍らの牧羊犬があたまを持ち上げる。くぅん、と甘えた声で鳴いた。立ち上がり、ふゆりと身を震わせる。少女に寄り添うのかと思えば、迅のとなりにおさまる。
「なでてほしいみたい」
「火にあたりたかっただけじゃない?」
 言いながら、少女が促すままに手を伸ばす。野を駆ける牧羊犬の毛並みは硬かったが、くしゃりとふかく指先をもぐらせれば温もりがあった。とくとくと、心臓はひとよりも早く動く。尻尾がご機嫌に振られていた。
「ユーチも、」
 自分の名前がいつもとちがう響きで紡がれる。少女にそう呼ばれると、どうしてかこころがゆるんだ。
「うん?」
「……ユーチの瞳も、星にみえるよ」
 ちいさな笑みがひかりに照らされている。「そう?」頬があついのは炎にさらされているからだ。少女は笑みをかさねて、「そうだよ」とささやいた。

 少女もまた、星だったのだろう。
 瞬いた未来のなか。ぱちりとはぜたひかりに、少女の輪郭がとけた。