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「告白じゃ、ない……?」
「え?」

 頭上30cmから降った言葉に首を傾げる。私以上に困惑した顔(むしろ半泣き)の彼は、そのまま膝から崩れ落ちた。あ、旋毛。



夏融けの春



 運命の出会いは二日ほど前に遡る。
 今日は月曜日、二日前は土曜日、そして私は三日前の金曜日、学校のロッカーに愛用のゲーム機を忘れるという失態を犯していた。ゲーム機はなかなか高価なものだ。二日間も学校に放ったらかしというのは些か心配である。休みの間に思う存分遊びたいというのもあり、土曜日の朝、私は渋々制服に袖を通した。
 暦上は休日でも部活動はある。いつもとは様子の違う校舎内。吹奏楽部の音が廊下伝いに響き、運動部の一年生は渡り廊下で基礎練習を繰り返す。校舎に入る前は外周帰りの陸上部とすれ違ったし、マネージャーらしき子が部室棟とグラウンドを行ったり来たりしていた。私とは縁遠い世界だ。
 そんな彼ら、彼女らを横目に見つつ、二年三組の教室へ向かえばなんてことはない。目当てのゲーム機は誰にも攫われることなく、ロッカーの中に鎮座していた。良かった、これで一狩り行ける。
 愛機を空っぽの鞄に突っ込み、鼻歌混じりに階段を下る。昇降口に人気はなく、大鏡に写るがらんどうの廊下が少々不気味だ。私はそそくさとローファーに履き替え、学校を出た。いや、出ようとした。
 そう、そこで運命の女神は微笑んだのだ。

「あ! すみません、バレー部が練習している体育館ってどこか分かりますか?」

 風に揺れる金の髪。肌は雪のように白く、言葉を生む唇はまるで果実のように瑞々しい。扇状に広がる長い睫毛が時折隠すのは、南極の氷のように澄んだ碧。もしもゼウスがヘラの目から逃れることができたなら、あっという間に攫われていたことだろう。私の中の詩人もゴリラのごとく暴れている。それほどまでに彼女は美しい。
 予期せず地上に舞い降りた女神に、私は時を奪われた。心臓も止まったかもしれない。いや違う、ものすごく動いている。恋かもしれない。

 とにもかくにも、これが私にとっての運命の出会いだったのだ。

「だから今朝友達に聞いて、弟くんらしき君に目星をつけて、写真でももらえないかと思って体育館裏に呼び出したの」
「最初っから最後まで姉ちゃん目当て!」

 崩れ落ちた格好から、わっと猫のように丸まってしまった。丸まってもなお大きい体。お姉様もとても背が高かった。きっと神が空からでも彼女を見つけられるようにと高くしたに違いない。心のゴリラは今日もドラミングに勤しんでいる。
 しかし、このままでは写真をもらえそうにない。昼休みの残りも少ないだろうし、どうしたものか。

「あ」
「やべっ!」

 今、人がいた。何気なく視線を流した先、すぐに引っ込んでしまったが、建物の影から覗いていたのは一組の山本くんだ。あの頭を見間違えるはずがない。「バレた!」「え!?」「馬鹿、逃げんぞ」「リエーフは?」「ほっとこう」山本くん以外の声が思ったよりも多いのは些末事である。

「あのー」
「ぎゃっ!」

 悲鳴とともに山本くんがぴょんと跳ねた。今まさに逃げようとしています、といった格好で一時停止しているのはバレー部の面々か。一年生から三年生までいるとはこれいかに。おまけに身長がとても高いので威圧感がある。負けるな私。肝心の弟くんは今ポンコツタイムで使えそうにないんだぞ。
 右手で拳を握り、未だ体と顔の向きの合っていないバレー部(仮)の方々を見上げる。眼力で負けてはいけない。眉間に力を入れ、意を決して舌に言葉を乗せた。

「誰かハイバネくんのお姉様の写真持ってる人、いません?」

 そして私は山本くんと友達になった。



運命の女神は偶然の傍らにて微笑む

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