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くしゃり。紙の潰れる音。今度はポケットの中ではなく、靴の中に入っていた。


友達におはようと
言ってください


思わず、は?と間抜けな声が出た。え、だってこれ、毎日してることだし、別にお願いされるようなことでもないし。

俺はてっきり誰かの恋のキューピットになれだとか、死にそうな人を助けろだとか、そういう類いの無理難題を吹っ掛けられるとばっかり思ってたから…。正直、拍子抜け。

まあ、うん。こんなのが続くんならその十の願いってのも叶えてやっていいかな、なんて。この時はまだ、軽く考えていた。




「よーっす、風丸ー。おはよー」
「おはよう、片貝。今日はいつもより早いな」


家から駅まで自転車で十一分。電車に乗って稲妻町まで二十三分。更にそこから歩くこと七分。はあ、雷門中って俺んちから結構遠いわけですよ。別にわざわざ希望して雷門中を選んだとかではなく、単に去年の冬くらいに引っ越したってだけ。

いつもは部室に着くまで会うことのない風丸だけど、今日は珍しく途中の道で鉢合わせたのでこうして驚かれた。


「今朝変な夢見ちゃってさー」
「変な夢?」
「そ。お陰で朝練前から汗だくっすよ先輩」
「そうっすか片貝先輩。どんな夢だったんすか?」
「……忘れたっす」
「なんだそれ」
「ない?今さっきまで覚えてたのに夢の内容が思い出せないーってこと」
「まあ、あるけど…」
「それっすよ。どうせ大した夢じゃなかったと思うっす」


…っていうのはもちろん嘘。ばっちり最初っから最後まで…いや、最期まで覚えてる。

からからと笑って風丸の背中を追い越せば、あいつはそれ以上何も聞いてこなかった。

風丸はたぶん、俺のことを一番分かってる。だからこういう時は黙って溜め息を一つ吐いて、仕方ないなって顔で笑って、俺の隣に肩を並べてくれる。

…甘えてるなあ、俺。


まあ何にせよ、これで一つ目の願いとやらは叶えたと思う。



朝にはおはようと言って

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