「時に逆先くん」
「何」
「君は今までの総課金額がいくらかわかるかのう?」
ストローを加えてちう、と吸ってみれば、冷たいオレンジジュースが口の中に流れ出す。甘いはずなのに、苦く感じるのは何故だろう。果汁のめいっぱい入ったそれなら、オレンジの酸味と混ざって甘さより苦みの方が強く感じることがあるかもしれないが、絶対にそんなことはあり得ない。だってこれ、ファーストフード店の、何の変哲もないよくあるオレンジジュースだし。
「とりあえずその気色悪い喋り方やめテ」
「何さ、零にいさんだってこういう喋り方してるのに」
「キミがにいさん呼びしないデ」
「まあそんなことはどうでもいいけどさ、夏目はどんなもんなのよ」
スマホ画面を見ながら、反対側に座る夏目の顔をちらりと見る。彼はその長い指でポテトをつまみながら、別ニ、とあまりにも普段通りの口調で言った。
「知らないけド、大した額してないと思うヨ」
「えっなんで! ゲーム好きとしてそこは重課金勢でいてよ!!」
「確かにゲームは好きだシ、課金はそのコンテンツの継続にも繋がっていく大事なことだけド、そこまで入れ込むゲームはボクにはないからネ」
「ええ、そんな……」
あまりの言葉に思わずばたんとテーブルに突っ伏す。(慌ててポテトやドリンクを避けた夏目は反射神経がいいと思う)ハア〜とクソデカ溜息をつけば、私のオタク行動にすっかり慣れ切った夏目が、今度は何? とめんどくさそうに聞いてきた。ソシャゲ関係だとわかりつつもわざわざ聞いてくれるとこ、本当に優しい。それだけでちょっとは救われる気がした。
「これ」
ぶっちゃけ思い返すだけで胃が痛い。先ほどまで私が見ていたスマホの画面を夏目に見せる。彼は私のスマホを手に取ってそれを見ると、ふーン、と興味なさげに零した。
「今度はこのカードが欲しいんダ」
「今予告来た……明日からだって……」
「キミついこの間もガチャで大爆死してなかっタ?」
「してたしなんならこの後まだまだ記念スカウト控えてるし」
「ふーン、頑張ってネ」
「心が!! こもってない!!」
「うるさイ」
「あのねえ私だって本当は推しのこんなに素敵でかっこいいカードがきたら泣いて喜びたいんですよ! でもね! 地獄を知ってるの! 私は地獄を知ってるの! 手放しで喜べないの!! だって来るかわからないから! 私がこのカードを手に入れられるという保証はないから! いや天井すれば話は別ですけど!? マジでガチャは悪い文明!!」
「でも回すでショ?」
「回します」
「課金するでショ?」
「します」
冷静にジュースを飲む夏目と、半泣きで彼の質問に答える私。テーブルを挟んだこの構図は、まさに対岸の火事といったところだ。周りの人からは相当シュールに見えてるんだろうなこれ。
「……夏目」
少しだけ顔をあげて、小さな声で名前を呼ぶ。すると彼は何、と全く変化しないテンションで返事をしてくれた。
「私ともししばらく連絡がとれなかったら……その時は、破産を疑って野垂れ死んでる私を見越して通報してください」
「やだヨ」