「泉ちゃん、最近ご機嫌ねェ」
「……は?」
『Knights』の打ち合わせ前。控室でそう口にすると、泉ちゃんはさも不機嫌そうにこちらを睨んだ。
「あのさあ、今の俺のどこを見てそう思うわけ? こちとら多忙で疲労困憊なんだけど」
「あら、だってお肌ツヤツヤしてるわよぉ♪ 精神状態は肌にすぐ出るから、ストレスを溜め込むなっていつも口酸っぱく言ってるのは泉ちゃんじゃない」
「だからって機嫌がいいとは限らないし。それに、俺の肌ツヤがいいのはいつものことなんだけど〜?」
いつもの通り自信満々で言う泉ちゃんだけど、まさか自分の機嫌が良いってことにすら気づいてないのかしら。さすがにそんな鈍いわけないわよね。アタシだって直接泉ちゃんから気持ちを聞いたわけじゃないけど、やっぱり長年の付き合いってヤツよね、なんとなくわかっちゃうし。
「まだあの子にバレエのレッスン付けてもらってるんでしょ? ご機嫌なのはあの子に関係してるのかしら」
「はあ? ちょっとなるくん、適当なこと言わないでよね。ていうか打ち合わせさっさと始めるよ。今はれおくんも海外行ってていないんだから、俺たちで出来ることはどんどん進めていかないと」
「ああ……そういえば、ファンの子たちの間でセッちゃんのダンスがよりしなやかでバレエっぽくなったって最近言われてるらしいよ」
「ちょっとくまくん、話聞いてた!?」
「ふむ、瀬名先輩は確かにballetの撮影中だと聞いていますが、あの子とは?」
司ちゃんは知らないのよねェ、なまえちゃんのこと。ウフフ、泉ちゃんが今一人の女の子にお熱になってるなんて聞いたらどう思うのかしら。
「別に俺のことなんてどうだっていいでしょ。それより打ち合わせ」
「まあもうちょっと話してもいいじゃない。レオくんがいないにしろ、こうしてアタシたち『Knights』が揃うこともそんなにないんだし」
「そんなにないから仕事の話をするって言ってるんでしょ!?」
「いいじゃん、俺はセッちゃんの話が聞きた〜い♪」
「先輩方はご存じなのですか? 私だけが除け者にされているようで、何だか複雑なのですが」
「かさくんは知らなくていいの! ていうかあんたらも知る必要ないし!」
「そういえば、この間可愛いアクセサリー買ったって写真が送られてきたわ」
シンプルな細めのシルバーネックレスの写真は、「合わせやすいし、華奢に見えるからお得感あるよね〜」なんて言葉と共に送られてきていた。アタシが普通の友達だと思って、ううん、普通の友達だから、些細なことでもメッセージ送ってねって言ったから送ってきてくれたのかしらね。気を遣ってないのか、逆に気を遣われているのかいまいち判断が微妙なところではあるけれど、でもやっぱり女の子からそういう日常の報告が来るのは嬉しいわァ。
「は!? いやいつ連絡先なんか交換して」
「あ、俺もこの間あの子のバイト先のお店行ったらまた会ってね、ちょっとサービスしてもらったんだよね」
「ちょっと待って聞いてないんだけど!?」
思わぬアタシと凛月ちゃんの発言に、泉ちゃんは驚いたような、はたまた焦ったような声色で責め立てる。ていうか凛月ちゃんも会ってたのね。アタシみたいに連絡先は交換してないみたいだけど、職場がわかってるっていうのは大きいわねェ。
「まあでも俺はあの子の踊りそんな覚えてないからさ。ちょっと改めて観たいと思ってるんだよね……♪」
「アタシもよ。近いうち公演とかないのかしら」
「……あいつの踊りは、まあ、綺麗だけど……って! そんな話してる場合じゃないでしょ! ったくもう、打ち合わせするよ、ほらかさくん!」
いった! ぱしりと泉ちゃんに頭を軽く叩かれる。んもう、せっかくセットした髪が乱れちゃったらどうしてくれるのよ。
珍しくアタシたちの話を静かに聞いていた司ちゃんが泉ちゃんにそう声を掛けられる。まあ仕方ないわね、確かにそろそろ打ち合わせを始めなくちゃ。そう思ってアタシも改めて向き直ったんだけど、ね。
「……よくわかりませんが、皆さんが話すあの子というのはballerinaで、まさかと思いますが……瀬名先輩の想い人なのでしょうか?」
まさかそんな直接的に聞いちゃうなんて、思いもしなかったわ。