「泉はさ、もしすっごくダサい衣装を着ることになったらどうする?」
話題の切り替えが唐突すぎたからだろうか。私のそんな言葉を聞いて、泉は何それ、とでも言いたげな不可解な表情をこちらに向けた。確かに今のじゃ言葉が足りなかっただろう。付け足す言葉を探して、ええと、と繋ぐ。
「今度の舞台で踊る役の衣装がその、……めちゃくちゃ可愛くて」
「全然意味がわからないんだけど。可愛いならいいじゃん」
「そうじゃなくて、その、可愛すぎるの」
ますます訳が分からないというようにはあ? と声をあげる泉に、私はもう一度「可愛すぎるんだよね」と繰り返した。
「リボンとかたくさんついてさ、なんかこう、これ着ていいの高校生までじゃない? みたいな……」
「それとさっきの質問とどう関係があるわけぇ?」
まだ私の考えを読み取れていない彼が催促するように人差し指をとんとん、と軽くテーブルに叩きつける。そうだよね、わからないよね。私だって相手が泉じゃなかったらこんな聞き方はしなかったよ。私の前に置かれた、既に半分はなくなっているアイスコーヒーに口をつけてから、だって、と答えを口にする。
「泉は基本的に似合わない服がないでしょ? 何着ても似合っちゃうじゃん。だからもし本当に、信じられないくらいダサい服を衣装として仕事で着てって言われたらどうするのかなって」
「ああそういうこと」
そこまで聞いてようやく合点がいったのか、彼は気の抜けたように小さく息を吐いた。
つまりはこういうことだ。私は次に踊る役の衣装が自分に見合わないほど可愛すぎる。そういう時、泉はどういう風に気持ちを落ち着けているのか聞きたかった。けれどそもそも彼に似合わない衣装なんてそうそうないと思うから、めちゃくちゃダサい衣装という言い換えをしてみたというわけ。
「まあ、俺が何着ても似合うのは当然だけど」
「あ、うん」
すかさず飛んできた言葉に間髪入れずに相槌を打つ。決して蔑ろにしているわけではない。本心の肯定だ。それが彼の性格だということはわかっているし、そもそも私は泉のそういう自信たっぷりなところが好きだから。
「でも意識はする。俺が、衣装が、今この世界で一番綺麗って思えばさらにもっと映えるから」
「……さすが泉」
「プロなんだから当たり前」
さらりとすごいことを言いのける泉に思わず感嘆の息を漏らす。すごい、けど、それって結局努力に繋がっているということだ。元々良いビジュアルなのに、意識をして内側からもオーラを放つ。本当に、どこまでもプロ意識の塊みたいなひと。ふわふわにセットした綺麗な髪の毛だって、長い睫毛だって、今グラスに手をかけている指先だって。きっとひとつひとつが生まれ持ったものと彼自身の努力が組み合わさって出来たものなのだろう。
「でも、あんたもそうでしょ」
「え?」
「踊るとき、自分が世界で一番綺麗だって。そう思わないとオーラも何も出ないでしょ。……まあ、なまえはそれこそそう思うように努力してるレベルだろうけど」
「その通りです……」
さすが泉、私のことをわかりすぎている。まあそれはそうだろう、私に自信がないっていうのは出会った時からバレていたことだったし。まあ、今はあまり自分を悪い風に考えないようにとそれこそ意識はしているけど。
「でも、今の俺の意見は俳優の仕事ならまだしも、モデルの仕事を考えて言ったから」
「どう違うの?」
「あんたも踊りで役を演じるでしょ。俳優と一緒。つまり踊ってるのはなまえであってなまえじゃない。着る衣装はその役にとっての服なんだから、あんたが似合うも似合わないも関係ない」
「……あ、そっか」
そこまで言われてようやく合点がいった。そっか、そういうことか。
「私は今まで通り、ただその役を演じればいいだけか」
「そういうこと」
考えてみれば今更なことだった。だってあの衣装を着ているとき、私は私じゃないんだから。舞台に上がっちゃえば関係ない。そんな当たり前のことに気付かされて、なんだかちょっと恥ずかしくなってしまった。誤魔化すように残ったアイスコーヒーを一気に飲み干すと、氷で薄まってしまった微妙な苦みが口いっぱいに広がった。
「……ああでも、一度すごい衣装渡されたことあったねぇ」
「すごい衣装?」
「パイナップル柄のシャツ」
「パイナップル柄のシャツ!?」