いや、ちょっと待ってほしい。ほんとに待って。誰に待ってって言ってるのかわからないけど待って。一体全体どうなっているのか、誰か私に説明してほしい。
 ここは私の家、それはわかる。見慣れないテレビカメラ等の機材と、知らない人たち数人。それも展開的にわかる。ただどうしたって、目の前のこの男のことだけはわからない。

「今日はよろしくネ、なまえチャン」

だから、なんで中学時代の同級生がここにいるの?

*

 思えば最初は本当に気軽なノリだった。友達が「ちょっとこれ面白そうだから一緒に応募してみようよ〜」なんて言ったのがきっかけ。
 見せてきたそのホームページは、ゴールデンタイムに放映している、人気の占い番組の一般公募だった。当たれば番組へ出演できて、占ってもらえるとのこと。私は占いが特別好きというわけではないが、その番組は見たことがある。毎週占いをしてほしいと応募してきた人の中から抽選で一人選ばれて、その人の家に占い師がお邪魔して占ってもらうという、ざっくり言えばこんな感じの内容だ。占い師は番組にレギュラー出演している有名な人たちの中からがランダムで来るらしいが、どの人も腕は確かで、占ってもらった人は早くて数日後、遅くて数年後に口を揃えて「本当に当たった!」とネットで騒ぎだすらしい。後日談として前に占ってもらった人が再び番組に出演しているのもよく見る。

 まあテレビだから多少のヤラセはあるかもしれないけれど、それでも興味がないわけではない。純粋に、私の人生これからどうなるのか占って欲しいと思った。人生というかこれからのソシャゲへの課金は報われるのか、推し(二次元)への恋は実るのか、あと戦争でしかない舞台のチケットは取れるのか、取るためにはどのように徳を積めばいいのか、とかまあそんな内容である。仕方ないよね、オタクだから。

 でもそもそもが結構な倍率らしいし、まあ当たらんだろ、どっちかでも当たったらすごいね〜なんて友達と笑って応募した。ら、なんと私が当選した。
 正直ちょっと後悔した。だってどっちかといえばこの運舞台のチケットの方に回したかったじゃん? この運あれば最前通路取れたかもしれないんだよ? いやまあそれこそただの妄想でしかないから言ったって仕方ないんだけど。
 こりゃもう凄腕占い師に占ってもらって豪運オタクになるしかねえな! ガハハ! なんて言って笑ってた、のが二週間前のことだ。
 
 で、今日。テレビ出るんだから顔面マシにしないとな〜と思って気合入れすぎない程度にちゃんとしたメイク、ちゃんとした服を着て、よし私可愛いわ! なんて自分を奮い立たせてテンションを上げまくった。いやじゃないとやってられなくない? 応募したとき考えてなかったけど、自分の顔面が全国に映るってよく考えたら地獄だったわ。ちょっとでも顔作らないと放送禁止だわ。ちなみに部屋はこの間ちゃんと掃除した。
 その後しばらくしてインターホンが鳴る。スタッフさんがぞろぞろと決して広くはない家に入ってくる。ここまでは想像通りだった。そう、彼が一番最後に姿を現すまでは。

「そうそう、実は今回の占い師はサプライズゲストとして、今人気の逆先夏目くんに来てもらいました!」

 そんなスタッフさんの言葉と同時だった。彼……逆先夏目は私を見て、こんにちハ、なんて愛想よく笑ったのだ。

 そして玄関からリビング(といっても私の家は一人暮らしの典型的なワンルームである)へと移動してもらい、スタッフさんに流されるままにみょうじなまえです、と自己紹介する。そして冒頭のセリフへと戻るのである。

 ちょっと冷静に考えてみよう。彼は評判の占い師だが、この番組のレギュラーではない。それは人気アイドルという役職も兼業しているからだろう。凄腕占い師に人気アイドルなんて、普通の人間じゃ到底持てないだろう才能を彼に持ち合わせた神さまはつくづく不公平だと思う。
 スタッフさんの言葉によるとサプライズゲストということで、今の今まで私に知らされてなかったっぽい。そして他に占い師っぽい人がいないことから、彼が私のことを占ってくれるということもわかる。わかる、けどさあ。
 いや、そりゃあ普通だったら大喜びでしょうよ。今話題の占い師であり、ライブのチケットも取れないアイドルに直接会えて、タダで占ってもらえるなんて。けど私は事情が違うんだよ。
 もう十年以上前だというのにまだ当時の面影が残っている。そう、繰り返すが、私は彼、逆先夏目と中学生のとき同級生だったのだ。

「えっと……」
「緊張してるのかナ? 大丈夫、ボクがちゃんと幸せの魔法をかけてあげるかラ」

 困惑したままなんとか口を開けば、彼はテレビそのままの口調でにこりと笑った。さすが逆先くんだね〜なんてスタッフさんたちは笑っているが、え、これカメラまわってないよね? もしかして今の彼って普段からこんな感じなの? いや、昔もこういう部分あったけど、少なくとも私に対してはこんなこと言わなかった。

「……あ、そっか、わかんないのか」
「なんか言っタ?」
「いえ! なんでもないです!」

思わず呟けばすかさず彼が反応してきた。耳いいな。ともかく、考えるに彼は私のことがあの同級生の私と同一人物だと気づいてないのだろう。私は彼を散々テレビで見ていたが、こちらはしがない一般人だ。面影があったとしても、こうしてメイクして当時より多少は垢抜けた(だろう)私がわからない……んだと思う。
 ……うん、覚えてないってことはない、よね。さすがに。だって私と彼は、当時結構仲が良かったんだから。

「逆先くん、これがみょうじさんの占い希望内容です」

 ひとまずこのことは一旦忘れて、撮影を終わらせてしまおう。その後にどうするか考えよう。そう思っていたら、スタッフさんが彼に一枚の紙を差し出した。占い内容……そう、私のオタ活について、のはずだけど、あれちょっと待って。確かあのときオタ活についてって書こうとしたら、友達に「あんたもし当たったらそんなオタク全開な姿全国に晒すの?」って言われてそれで。

「ふうン……恋愛相談カ」

 しまったーッッ!! バカ! あの時の私バカ! じゃあ無難に恋愛とかにしとくか〜彼氏なんて縁なさすぎるし! なんて言ってた私バカ! そしてそのことを完全に忘れてた私バカ!! かつての同級生に恋愛事占われるのめちゃくちゃ恥ずかしくない!? あっちが私に気づいていないとしても! 私が勝手に恥ずかしい! 気まずすぎない? 帰っていい? いや家はここだけど!

「じゃあとりあえず玄関入るところから撮影しますんで、インターホン鳴らしたら笑顔でドア開けてもらっていいですか?」
「あ、は、はい!」

え、待ってもう撮影始まるの? てかそんなところから録るの? テレビの撮影ってこんな感じなの? はいとか返事したけど全然心の準備できてないよ!
 けどここまできたら腹を括るしかない。そうだ、もう純粋にただ占い結果を楽しみにしとけばいい。それだけだ、うん、それだけ。
 そう思ったら少し気が楽になり、比例して撮影もあっさり進んでいく。そしていよいよこれから占ってもらうところになった。既にカメラは回っている。
 彼は私の前にいかにもな水晶玉を広げて、それからじっと私の目を見た。

「ふム、占う内容は恋愛相談ということだけド、具体的にはどういったものかナ?」
「えーっと……こ、これから私の恋愛運はどうなっていくのかなとか、あとこれから彼氏になる人の人物像とか知りたいですね!」
「……なるほどネ、わかったヨ」

とりあえず適当に言っとけ! ということで、さっき考えたありきたりな内容を口にする。でもどうしよう、人物像に推しが出たら。腰に帯刀してるとか言われたら期待していい?
 そんな私の不純な考えはさておき、彼は何か呪文のようなものを唱えてから水晶玉を見つめた。彼の眼にはこの水晶に何かが映っているのだろうか。私にはただのガラス球にしか見えないけど。
 占いは基本良い事だけ信じるタイプだ。だから悪いこと言われようと、まったく気にしない……んだけど。

「ちょっとこれハ……どういうことなのかナ」

不思議そうに言ったそんな声色に、私はへ、と視線を水晶玉から目の前の顔に移した。

「恋愛運はいいヨ、これから波はあれど上がり続けていくク。けド……」
「けど?」
「人物像は全く何も見えないネ」
「え!? そ、それって一体どういうことですか……」

 予想もつかなかった答えに思わず声が引きつる。それって私は一生彼氏出来ないってこと? いやオタクやってて今は楽しいけど、一応私だって年頃だし、周りには既に結婚してる人だっているし、いつかできたら、それは嬉しいなって思ってるんだけど。
 うーン、と少し考えこむように彼は再びじっと水晶を見つめる。ていうか今更だけど相変わらず顔綺麗だな。

「相手がいないってわけじゃないと思うんダ。実際恋愛運は上がっていくしネ。たダ、本当に相手の姿の何もかもが見えなイ。こんなのはボクも初めてだヨ」
「そ、そうなんですか……」
「けど悪い結果じゃないと思うヨ。それはこのボクが保証してあげル」

ちゃんとした答えが出せなくてごめんネ、と彼は申し訳なさそうに笑った。今更だけどこれお金払わないで見てもいいやつなのかな、かっこいいな。そんなことを考えていたらその占いの結果は割とどうでも良くなってしまった。そもそも本当に聞きたかったのはオタ活のことだし。
 それからなんやかんやで色々と他にも占ってもらった。が、彼が「何も見えない」と言ったのは最初のあれきりだった。

「では、本日はありがとうございました」

 結局撮影は二時間にも満たないうちに終了。放映は約一ヶ月後とのことらしい。なんだかんだで占ってもらうのはやっぱり楽しくて、そして結果もそこそこ良かったこともあり、ああ応募してよかったなあなんてのんびり考えていた。
 スタッフさんが次々に私の家を出ていき、ああこれで彼ともお別れかとちょっぴり寂しくなる。どうしようか考えようなんて思ったけど、かつての同級生であっても、遠い存在となってしまった彼に今更話しかける勇気なんてなかった。
 でもほんの少し、懐かしかったな。二人で話す、あの空気が。

「ごめんなさイ。すぐに後を追うかラ、先に行っててもらってもいいですカ?」

 そんな感傷に浸っていた時だ。彼が突然スタッフさんたちに声を掛ける。え、何、どうしたの。私に背を向けてひらひらと手を振る彼に、スタッフさんたちもわかりましたーなんて去っていくけど、何? これなんのイベント?
 そして一人残らずスタッフさんが家を出ていって、がちゃりと玄関のドアが閉まる音がする。
 玄関先で男女がふたりきり。これ乙女ゲーだったら押し倒される感じだなとばかみたいなことを考えていた私だったが、次の瞬間。くるりと振り返ってこちらを見た彼……夏目を見て、心底びびってしまうのである。

「ボクが気づいてないとでも思ったノ、なまえ」

何その呆れ切った顔。さっきの営業スマイルどこいったの。