迷子


とある地方にて、今年のリーグチャレンジが近づいてきた頃。一人の男が迷子になっていた。

この地方ではおなじみの風景で、見つけ次第協力的に目的地に案内するのが現地民全体の認識だ。
気晴らしに散歩に出ていたこの男が、自分の周囲が見知らぬ風景であること気づいた時には、既に森の奥深くに足を踏み入れてしまった後。

「まいったな…」

方向音痴の彼が道に迷った際、自力でどうにかなった試しは、あまりない。
ふむ。と顎に手を当てどうするか悩んでいると、木々を騒めかせるほどの風が吹き、彼の被っていた帽子を攫っていってしまう。

「待ってくれ!」

強風に流されたのか。背中を押されたのか。戸惑っていた足は自然と道なき道を駆け抜ける。
先に広がる草原に着地した帽子。

「よかっ───!?」

の隣に、頭から上半身にかけてを地面に埋められている人間が視界に入った。
思わず歩みを止める。この不可思議な状況は、男がその地方でポケモンチャンピオンと呼ばれていても、困難を招くには充分だった。

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