レース越しの秘密

「なんでいるんだよ……」

 チリンと鳴らして開いたドアの向こうに、同僚の姿を見かけて緑は頭を抱えたくなった。たまたま同僚とカフェで会っただけなら、全然良かった。だがここはメイドカフェ。そして、緑はメイドさんとしてこのメイドカフェにいた。もちろん身に着けているのは、配信用の衣装とは違う可愛らしいデザインのメイド服。頭に付けたヘッドドレスに膝上のスカート、歩くたびに揺れるレース。誰が見てもいまの緑はかわいいメイドさんである。人手が足りないの一日だけでも!と頼んできた知り合いを恨みたい。一日だけなら、同僚にも会わずに終わると思ったのに。

「みどりちゃん、オーダー!」
「あ、はい!」

 何も知らない店長を恨みながら、しぶしぶボックス席へ向かう。気味が悪いくらいにこにこしている加賀美ハヤトと、尋常じゃないくらい動揺している夢追翔。くっそ、おぼえていろよ加賀美!どうせお前だろ!!と心の中で悪態をつきながら、決まり文句を言う。

「……おかえりなさいませ、ご主人様。ご注文はお決まりでしょうか?」
「り、りりり、りゅうしぇん!!!!???なに、なんで、??うわ゙ーー、め、メイド服!!」
「夢追さん!”みどり”さん、ですよ」

 動揺が止まらない夢追と小声で訂正する加賀美。どちらから、まず何を言ったらいいのかわからないが、とりあえず。

「なんで、はこっちのセリフ。…おい、加賀美!どうせお前だろ!なんで知ってるんだよ」
「ふふ、秘密です。……少しだけヒントを。私、ここの偉い人と仲良いんですよ」

 小声で帰ってきたほぼアンサーなヒントを聞いて、少し納得する。その偉い人やらと、緑の知り合いはたぶん同じ人物だ。妙な偶然に本当に偶然なのか疑いたくなる気持ちを抑えて、加賀美の正面に座っている夢追の方を見る。

「…ええ、かわい、かわいすぎるな……ヘッドドレス、天才か????足だって、普段はそんな丈着ないのに、……が、ガーター???!!」

 勢いよく夢追から視線を外した。ぶつぶつと唱える夢追にぞわぞわと鳥肌が立つ。なんだお前。今日はいつもよりキモい。おい、そこまで見るな。じわじわと赤くなる耳を誤魔化したくて、テーブルの上のメニュー表を乱暴に開く。

「ご注文はお決まりですか?」

 生暖かい目で見られながら、再度尋ねる。オーダーを取らなければ、緑は奥へ戻れない。お願いだから長居するな、その圧を込めて加賀美を睨む。夢追からはずっと視線が飛んできていて、そちらを見たくなかった。仕方なく目が合った加賀美がにっこりと笑う。

「じゃあ、この”萌え萌えオムライス”とコーヒーを」
「あ、僕もそれで」
「チェキもお願いします」

 ちゃっかりチェキも撮る気の2人を睨んで、オーダーが取れた緑は奥へと帰った。


   緑に睨まれた大人2人は笑みを一層深くした。フリルのヘッドドレスやひらひらと揺れる白いレース、緑にしては珍しい短い丈のスカート。緑の、緑仙の珍しい姿。

「……ハヤト、連れてきてくれてありがとう」
「いえ、”たまたま”知り合いから聞いただけですので」
「へぇ……前から思ってたけど、ハヤトも結構”あの子”のこと好きだよね」
 
 思わず声を出して笑ってしまう。ああ、結構大きい声だったらしい”あの子”がこっちを睨んでる。
 
 「夢追さんがそれ言うんですか?」

 加賀美の仕返しの言葉に、夢追さんがむせた。

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